タチアラシユウト(39歳・球場のグラウンドキーパー17年)
最終戦の翌朝は、まだ昨日のスパイクの跡が内野に残っている。深く沈んだのはショートの定位置、二塁ベースの両脇。その上に重機が入る。跡を踏み消して、表層をはぎ取るところから、オフが始まる。
内野の土を全面で入れ替える年がある。表層から十五センチをバケットではぎ取り、トラックに積む。一年踏まれた土は、荷台で見ると思いのほか少ない。握っても、もう崩れない。新しい土は色が明るく、握ると崩れすぎる。崩れすぎる土は、まだ踏めない。落ち着いて、握って固まりほろりと崩れる帯に入るまで、ここから何十日かかる。その日数を、私はまず指で数える。
芝は傷んだ区画だけを張り替える。どこを替えるかは、一年の摩耗が決める。外野の定位置、左中間の打球がよく落ちる帯、ベンチ前。地肌が透けて見える場所が、選手の足が一年でいちばん通った地図だ。私はその地図を、こことここ、と区切る。張り替えない区画には、二十センチ間隔で土に刃を入れ、刃の深さは八センチ、根の下まで空気の道を通す。
土と芝の下には、水を抜く配管が伏せてある。暗渠だ。砂利の層に管が通り、降った水を集めて外へ流す。シーズン中は見えない。オフのいまだけ点検口を開け、中を覗く。落ち葉、細かい砂、流れの鈍り。詰まれば、夏の夕立のあと内野に水が引かない。だから詰まりは見つけ次第かき出す。見えないところだから後回しにする、ということはしない。引かない水を翌日選手に踏ませることが、何を意味するか知っているからだ。
勾配を測り直す。グラウンドは平らに見えて、平らではない。マウンドを頂点に、外へごくわずかに下げてある。一塁線まで、規定は二十メートルで六十ミリ下がる。レベルを覗き、標尺を立てて読むと、いまは五十一ミリしか下がっていない。九ミリ、一年で起き上がった。この九ミリが、雨上がりに水たまりを残す。私は標尺を動かしながら、足す土の厚みを場所ごとに書き留めていく。
土でないものにも冬がある。フェンスのへたったクッションを張り替え、ベースを留める金具を点検し、角の擦り切れたベースを新しいものに替える。これらは生きていないから、淡々と数を数えて交換するだけだ。リストの項目を、一つずつ鉛筆で消していく。一つ消し残せば、開幕の日に間に合わない。
すべては開幕の日から遡って組む。三月二十八日に踏める芝にするには、養生に四週、張りは二月の最終週まで。入れ替えた土が帯に入るのに二十五日、だから土は三月のはじめに据え終える。寒で土の動かない日、雪で止まる日を、間に二週見込む。私は卓上のカレンダーを、開幕から逆向きにめくっていく。どの作業も、終える日のほうが先に決まっている。
重機が去り、新しい土が均され、白線のない内野が広がっている。誰も走らない。標尺はしまった。リストは消し終えた。私は手袋を外して、据えたばかりの土をひとつかみ握る。まだ崩れすぎる。あと何十日か、と指がもう数えている。スタンドは空のままだ。私は土を置いて、明日の作業の道具を、入口の脇に並べておく。