海峡の、塩(第二稿)
海上橋の塗り立てに、潮風が当たる最初の一日

タカナシイツキ(38歳・橋梁塗装工18年)

海の上の橋を塗っている。川の橋から海の橋に移って、最初に覚えた仕事は、塗ることではなく洗うことだった。塩を落としてから塗る。落とし切れていなければ、また洗う。川では一度もやらなかった工程だ。

飛来塩分を測る。鋼面にガーゼ法のろ紙を一定面積、一定時間貼り付けて、剥がして純水に浸し、付いた塩を溶かし出す。その水の電気の通りやすさで塩分の量を読む。同じ鉄なのに、ここの数字は前にいた川の橋の何倍も出た。怖いとは思わなかった。ただ、これは別の仕事だと思った。

洗うのは高圧水だ。ノズルを鋼面に向けると、反動で腕が後ろへ持っていかれる。膝で踏ん張って、継ぎ目とボルトの際を狙う。塩は影に溜まる。平らな面より、影のほうが時間をかける。デビューの現場で、赤い錆を取り残したのが継ぎ目の影だった。塩も同じ場所に隠れる。

塩を残したまま塗れば、塗膜の下に塩を閉じ込める。塩は水を呼ぶ。膜の内側で塩が水を集めれば、そこが膨れ、浮き、剥がれる。表面はきれいに塗れている。中だけが死んでいる。だから洗ったあと、もう一度ろ紙を貼って測る。基準まで落ちていなければ、塗料の缶を開けずに、ノズルを握り直す。塗りたい手を止めるのが、いちばんきつい。

重防食の層を塗り重ねていく。一層目は粘って、刷毛が重い。鉄に食い込ませる塗料は、硬くて手に応える。その上の遮断の層は、伸びる代わりに乾きが遅く、翌日まで触れない。いちばん外の層だけが、刷毛が軽い。色は灰、また灰、最後に少し青みのある灰。剥がして断面を見れば、川の橋の地層より、層が一枚も二枚も多い。

桁の下を塗る日は、潮に合わせる。満潮の朝は海面が足場に近すぎて入れない。干潮が午後二時すぎなら、昼飯を早めて、二時から海面が下がった分だけ足場を下げて塗る。一度、満ちてくるのを甘く見て、桁の付け根を一筆残した。戻ったときには海面が上がっていて、その一筆だけ翌日の引き潮までやり直せなかった。海の上では、地面の高さが時計で動く。

観光航路のフェリーが、橋の下をくぐる。甲板から、こちらを見上げる人がいる。漁船は足場のすぐ下を通って、船尾で手を上げる年寄りもいる。川の橋では、塗っている真下を人が通ることはなかった。ここでは橋は風景で、その風景に足場のシートの色まで指定が入る。海から見られているから、私たちの養生にも色がある。

その日の夕方、塗り終えた桁に潮風が当たった。朝に洗い落とした塩が、また風に乗って、塗り立ての面と私の頬に同時に当たる。頬の塩はしょっぱい。桁の塩は、今日塗った膜が弾く。明日もまた、私はろ紙を貼ってから缶を開ける。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。