修理品、お預かり(第二稿)
三回かけた電話の、四回目に知らない声が出た

タテイシリン(33歳・オルゴール修理職人11年)

昨年の十一月、八十代の女性が、布に包んだオルゴールを両手で持ち込んだ。蓋を開けると、シリンダーのピンが数本欠け、低音側の櫛歯が一枚、根元から折れていた。「直りますか」ではなく、「間に合いますか」と聞かれた——ような気がする。当時の私はそうは聞いていない。いまになって、そう思い出してしまう。記憶はあとから起きたことに合わせて形を変える。だからあの問いは、事実としてではなく、いまの私の記憶として、ここに書いておく。

預かりの伝票を書いた。品名、症状、概算。納期は未定とした。部品の入手に時間がかかる見込みだったから、備考欄に「お急ぎにならないで可」と書き添えた。客に言ったのではない。自分への覚え書きだ。急がなくていい修理だと、私が決めた。

欠けたピンは植え直す。シリンダーに残った穴の径を測り、線材を選び、長さを切りそろえて、一本ずつ立てる。角度が狂えば隣の歯を巻き込み、高さが狂えば空振りする。許される誤差は、髪の太さより小さい。一本植えては回し、弾かれ方を確かめる。欠けていたのは数本でも、確かめる回数は数十回になる。

折れた櫛歯は太い歯だったから、継がずに作った。荒く成形してから、ヤスリで音程を追い込む。削れば高くなり、戻せない。基準の少し下で止めて、最後の一往復は翌朝の耳でやった。ガバナーはウォームが摩耗していて、合う部品が国内になかった。取り寄せに二ヶ月。そのあいだ、その一台は作業台の隅で布をかぶっていた。五月の頭に全部が揃った。組み上げて、閉店後にゼンマイを巻いた。曲が一周する、三十数秒。欠けていた音が全部の場所で鳴って、曲は曲に戻っていた。二度巻いて、二度聴いた。

翌日、伝票の電話番号にかけた。出ない。時間を変えて、三回かけた。四回目に、知らない男性の声が出た。店名と用件を言うと、少しの間があって、「母が予約した品ですか」と言った。母は先月亡くなりました、と。受け取りに伺います、と。私は納品の準備が整っている旨と営業時間を伝えた。男性は日にちを言い、私は復唱した。どちらも、声のトーンを変えなかった。変えなかった、という事実だけを、ここに書く。

納品の前には、全部の動作をもう一度確かめる。ゼンマイを最後まで巻いて一周、半分巻いて一周、止め金の効き、蓋の蝶番、ガバナーの音。いつもの納品と同じ手順だ。同じ手順を、いつもより一回多くやった。梱包はいつもどおりにした。請求書をどうするか、一瞬迷った。迷って、規定どおりに作った。まけることも、もらわないことも、依頼主への礼を欠く。あの人は客として来て、値段を聞いて、頷いて、預けていったのだ。

約束の日、息子さんは時間どおりに来た。台の上でオルゴールの蓋を開け、一度だけ、ねじを巻いた。三十数秒、二人とも黙って聴いた。曲が止まると、息子さんは「ああ」と言った。それだけだった。私は修理箇所の説明を始めた。植えたピンの数、作り直した歯、替えた部品。足したピンの一本がどの音にあたるのかを、言いかけて、やめた。息子さんは請求書の中を見ずに頷いて、規定どおりの額を払った。

店に戻って、伝票を閉じた。処理欄に書ける言葉は、規定では「納品済」しかない。納品済、と書いた。備考欄の一行は、書き直さずにそのまま綴じた。その夜、別の預かり品のゼンマイを巻く前に、一拍置いた。一拍置いてから、巻いた。その一拍は、次の日もあった。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。