忘れ物の、タグ(第二稿)
号車、座席番号、発見時刻——その数十秒で人を考える

ツムラサエ(36歳・新幹線の車内清掃9年)

忘れ物には、タグをつける。書くのは三つ。号車、座席番号、発見時刻。それ以上は書く欄がない。書いたら遺失物の引き継ぎ窓口へ回す。それで私の手から離れる。

定番は、傘、紙袋、スマホ。この三つで忘れ物の半分になる。傘は座席の足もと、紙袋は座席の下、スマホは座席ポケットの中。ポケットの奥は指を二本入れて底を撫でる。九年やって、目より先に指が見つける。スマホがまだ温かい日がある。手は次の席へ動いている。温度のことは、あとで思い出す。

季節も置いていかれる。夏は麦わら帽子が網棚に乗ったまま終点まで来る。冬は手袋の、片方。両方そろって落ちていたことは、九年で一度もない。片方が座席に残り、もう片方は持ち主のポケットにある。私はその片方を拾う。戻ったという話は、聞かない。

網棚のものは、見落とされる。人は上に上げた荷物を、降りるときに忘れる。だから七分の中で、必ず首を上げる。座席を回し、テーブルを拭き、それから網棚を見上げる。屈むより見上げるほうが、首の後ろに来る。腰ではなく、首。それでも見上げる。網棚を見ない清掃は、清掃にならない。

紙袋の中は、見ない。決まりだ。見なくても、重さと角の張り方でわかる。箱が一つ。包装紙が四角く張っている。誰かに渡すはずだった物だ。私はそれにタグをつける。号車、座席番号、発見時刻。手は止めない。紙袋を窓口の籠に入れて、次の席へ行く。

座席ポケットの奥から、文庫が一冊出た。栞のかわりに、丸めた領収書が挟んである。喫茶店の名前が印字されていた。何ページで止まっているかは、見ない。見る七秒がない。タグをつけて、窓口へ回す。読みかけの本は、読みかけのまま窓口へ行く。

タグを書く数十秒は、七分の中で手がいちばん遅くなる時間だ。新人の頃、先輩に言われた。「考えるな。手を動かせ」。考えない訓練を九年してきた。それでも、ペンが号車を書く間に、この傘の持ち主のことが浮かぶ。浮かんだぶんだけ、ペンが遅れる。遅れたぶんを、次の席で取り返す。

終点は、忘れ物が多い。もう降りるだけだと、人は気をゆるめる。私はひとつひとつにタグをつけて、窓口へ回す。届きました、という声が窓口に来ることもあるらしい。その声は、清掃員のところまでは来ない。誰の手に戻ったのか、戻らなかったのか、私は知らないまま、次の車体がホームに滑り込んでくる。私は手袋をはめる。

← 第一稿
辛口レビュー
← シリーズ目次に戻る

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。