ウメガキリン(22歳・植物園の温室係4年)
熱帯温室の中はいつも二十五度だから、外の春は気温では分からない。分かるのは、注文した用土が届く日だ。鹿沼と赤玉、腐葉土の袋が裏口に積まれると、植え替えが始まる。冬のあいだ動かさなかった鉢を、いっせいに抜く季節になる。
鉢を逆さにして抜くと、土がそのまま鉢の形をして出てくる。これを根鉢と呼ぶ。表面には根が、鉢の内側をなぞって巻いている。長く植え替えていない鉢ほど、根は壁に沿って渦を巻き、底では白い団子に詰まっている。その渦が、その植物がここで過ごした数年だ。何年抜かなかったかは、巻いた段の数でだいたい分かる。
入った年に、先輩に言われた。「根を見れば、水やりが分かる」。浅いところにばかり根が広がっている鉢は、水のやり過ぎだ。表面がいつも湿っているから、根は下へ伸びる必要がない。深くまっすぐ張った根は、乾きを我慢して水を探しにいった根だ。我慢を知っている根、と先輩は言った。その日の帰り、私は自分が一年世話した多肉を一鉢抜いた。根は浅く、横にばかり広がっていた。私は、やり過ぎていた。
鉢増しには号数がある。詰まった鉢は一回り大きくする。ただし五号の次は七号ではなく、六号だ。一気に大きくすると土ばかり多くなって、根が回りきる前に下の土が湿ったままになり、根が傷む。だから一段ずつしか上げない。土を植物に合わせるのではなく、根が今すぐ届く広さに合わせる。多肉の鉢には鹿沼を多く、葉ものの鉢には腐葉土を増やす。配合は、抜いた根を見てから決める。
すべてを大きくするわけではない。大きくしたくない木がある。通路に置ける幅は決まっているし、いまの樹形で止めておきたい鉢もある。そういうときは、巻いた根を底からハサミで落として、同じ号数の鉢に戻す。「これ以上は大きくならなくていい」と、根のほうに伝える作業だ。根切りバサミは、一鉢ごとに刃をアルコールで拭く。一鉢の病気を、刃が次の鉢へ運んでしまうからだ。
植え替えた鉢は、しばらく葉を落とす。一度しおれて、そのまま数週間うつむいているものもある。だから春のはじめ、いちばん力の出る時期を選んで抜く。去年、遅れて四月に植え替えた鉢は、隣の三月組より立ち直りがひと月遅かった。植え替えを終えた鉢には白い遮光ネットをかける。弱った根が水を吸い上げきれないうちに直射を当てると、葉がもたない。ネットの下の、温室のいちばん奥に、機嫌の悪い鉢が並ぶ。
抜いたあとの古い鉢は、洗って号数ごとに重ね、裏の棚に積む。素焼きの鉢は、重なるとき低く鳴る。古い土はふるいにかけ、根の屑を取って、来年の配合に戻す。
来園者は花と葉を見て帰る。私は今朝も、抜いたばかりの一鉢を手のひらに乗せて、根の渦を指でほどいている。底の団子は固い。この鉢が我慢してきた数年が、指の先にある。ほどき終えたら、六号に移す。