アンドウユイ(教務アシスタント)
大学案内の改訂作業では、載せる情報より、載せなくなった情報のほうが長く残る。誌面から研究室名が一つ消えると、空いた余白はただの空白では済まない。教員紹介の並び、実験室の配置図、履修モデルの注釈、広報写真の撮影日まで、少しずつつじつまがずれていく。学科再編の年に起きるのは、制度の更新だけではない。印刷物の表面から静かに削られた名前が、学内のあちこちで別のかたちのまま生き残る。
きっかけは、十年前のパンフレットに載っていた生体計測研究室だった。現行版には見当たらず、公式サイトの研究室一覧にもない。けれど、入試広報用に保管している古い版下データには、確かにその欄がある。担当教員名で学内検索をかけると、今度は総合科学領域の紀要に名前が出る。所属は工学系から情報系へ移り、その後、センター所属となり、今年度の組織図ではさらに別の教育拠点の一員として記されていた。研究室が消えたのではなく、掲げる看板だけが何度も塗り替えられていた。
再編の資料を追うと、その移動の仕方に大学の都合が透けて見える。学科名は受験生に伝わりやすく整理され、研究分野は競争力のある語へ言い換えられる。広報には分かりやすさが求められ、予算書には分類の整合が求められる。その途中で、境界にいた研究室ほど説明しにくくなる。医工連携に近いが医療系ではなく、情報を扱うが情報学科の中心とも言い切れない。そうした場所は改編図のなかで矢印を多く引き受け、最後にはどの学科の顔としても紹介されなくなる。
それでも、痕跡はきれいに消えない。共同研究の契約書には旧組織名が残り、卒業論文の要旨集には旧研究室名のまま学生の名前が並ぶ。設備台帳を見ると、同じ測定装置が三度も設置場所コードを変えている。古い電話帳には内線番号があり、現行の教職員名簿にはない。私は照合表を作りながら、研究室という単位が、部屋番号や組織名だけで決まるものではないと知った。教員、学生、装置、テーマ、その束ね方が変わるたび、外から見える輪郭だけが先に更新される。
大学案内から研究室が消えるとき、そこには単純な終了より複雑な事情がある。人気分野への寄せ替え、改組にともなう定員配分、広報上の整理、教員の異動、共同拠点化。どれも一行で説明できるが、一行では収まらない。特に、学部生募集の言葉と研究の実態がずれる瞬間に、その差が最もはっきり現れる。学内では継続している営みが、外向けの冊子では別名になり、時には代表者名だけになり、時には完全に欄ごと消える。その手つきは事務的で、だからこそ深く残る。
古いパンフレットを閉じたあと、残るのは懐旧ではなく、大学が自分の歴史をどのような順序で並べ替えてきたかという感触である。再編は未来志向の語で説明されるが、実際には、置き去りにした名称の数だけ過去の地図を増やしていく。案内冊子に載らない研究室は、学内から消滅したのではない。別の所属欄、別の予算項目、別の研究代表名の下で、いまも記録の端に現れる。冊子の余白を見れば、その大学が何を前面に出し、何を後景に送ったのかが分かる。学科再編の痕跡は、更新後の美しいレイアウトより、削除された欄のほうに濃く出る。
——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。