ウオズミショウ(46歳・段ボール箱の設計者22年)
青果の箱の中身は、まだ生きている。収穫されたあとも野菜は呼吸し、糖を分解して熱を出し、水を吐く。蓋をしても止まらない。だから青果の箱には穴をあける。呼吸が出す熱と湿気を逃がす穴だ。だが穴は箱を弱くする。段ボールの強度は、面が連続していることで生まれる。穴をあけた瞬間、そこから座屈が始まる。逃がす穴と、支える面。同じ一つの側面の上で、この二つがぶつかる。
私は穴を、側面の上から三分の一、直径三十ミリで六つ置く。下に置けば荷重の通り道を断ち、上に積んだ箱の底で塞がれない高さに置く。熱は上へ抜けたがるから、穴も上寄りでいい。直径を四十ミリにすれば二割よく抜けるが、圧縮試験で最下段が一段早く座屈する。三十ミリ六つは、抜けと強さの折り合いの点だ。一ミリ広げるごとに、何段積めるかが変わる。
同じキャベツでも、産地が違えば箱が違う。寒い土地のものはトラックで丸二日かかる。だから段を一段厚くし、穴を四つに減らして、冷気で締まった玉を守る。近郊のものはその日のうちに市場へ着く。段は薄く、穴は八つでいい。箱の違いは、その土地から市場までの時間と、長く同じ道を運んできた運送の歴史が決めている。私は中身ではなく、産地から市場までの距離を設計している。
ももは、外箱では守れない。指で押せば痕が残る。だから一個ずつの窪みを成型したトレイに寝かせる。窪みの深さは果実の半径より浅くし、隣と触れない間隔をあける。深すぎれば肩が窪みの縁に当たり、浅すぎれば転がる。その上にフィルムをかけ、外箱で囲う。外箱は中身に触れない。触れているのはトレイとフィルムで、外箱はその小宇宙を外から支える殻だ。いちごはももより軽いから窪みを浅くし、段数を一段増やせる。柔らかさの違いが、窪みの深さの違いになる。
市場の朝を、私は見に行く。机の上では、この箱は六段までと荷重計算で出していた。七段目で最下段が座屈する、と。だが競りの前、フォークリフトが運んできた山は七段だった。現場は計算どおりに積まない。空いた床はないし、リフトの爪は一度に高く積めるほど早く回る。私は最下段の箱の角を指で押した。罫線の交わる角が、わずかに膨らんでいた。座屈の一歩手前だ。計算の六段は、現場では守られない数字だった。
工場に戻って、最下段だけを別の段で組むことにした。六段ぶんの荷重で設計するのをやめ、七段に耐える紙を最下段に回す。上の六段はそのまま、いちばん下の一段だけ腰を強くする。市場が七段積むなら、七段で潰れない箱を設計する。理屈の六段を現場に押しつけるのではなく、現場の七段を図面に持ち帰る。市場の朝に角を押した指の感触が、最下段の段の選び方に畳み込まれた。
梅雨どきは、湿気との戦いだ。段ボールは紙だから、空気の水を吸えば繊維がふやけて腰が抜ける。へたる、と言う。青果は中から水を吐くので、箱は外と内の両方から湿る。だから青果用には撥水加工の原紙を使う。豊作で大玉の出た年には、窪みが浅すぎて肩がつかえ、トレイの型から起こし直した。当たり年の果実に、前の年に決めた窪みの深さが追いつかない。自然の寸法は、人の規格より先に動く。
今朝の市場で、最下段の箱の側面に、雪をかぶった山の絵が刷ってあった。私が穴を六つあけ、腰を強くした、あの産地の箱だ。隣の山の箱は、同じ赤で別の山を刷っていて、棚では見分けがつかない。買い手は中身を見る前に、まず側面の山を見て、片方の山へ手を伸ばした。箱は角を膨らませながら、七段目まで潰れずに立っていた。