ウスダマコト(44歳・生コンプラント出荷管理22年)
冬になると、プラントの戦い方が変わる。夏は時間と競走するが、冬は温度と闘う。十二月から二月のあいだ、私の机の上では、いつもの呼び強度とスランプの横に、もう一つの数字が居座る。温度だ。寒い朝、白い息を吐きながら、男たちは静かに材料を温め始める。
寒中コンクリートには規定がある。打ち込むときのコンクリートの温度を、ある下限より下げてはいけない。たしか五度くらいだったと思う。なぜかというと、凍ってしまうと強度が出ないからだ。固まる前の水が凍ると、中で氷が膨らんで組織を壊し、溶けたあとは空洞だけが残る。だから冬は、固まる前に凍らせないことが、なにより大事になるのだ。
そこで、材料を温める。プラントにはボイラーがあって、蒸気が骨材と水を温める。冷え切った砂や砂利は、そのまま練れば氷水のようなコンクリートになるから、蒸気をあてて温めてから練り混ぜる。湯気の立つ砂を見ていると、まるで料理の下ごしらえのようだ。温かい材料から、温かいコンクリートが生まれる。冬のプラントは、台所に少し似ているのかもしれない。
練り上がりの温度は、計算で決める。外気温と、現場までの運搬時間。トラックが走るあいだにコンクリートは冷えるから、現場に着いたときにちょうど下限を割らないよう、出荷の温度を逆算する。遠い現場で、寒い朝なら、その分だけ高めに練って出す。気温は伝票には書かれないが、冬はいちばん我の強い注文主だった。
出すだけでは終わらない。打ったあとの養生も、前の日に現場と相談する。流したコンクリートをそのまま外気にさらせば、表面から凍る。だからシートで覆い、ジェットヒーターで温める。「何度まで保ってくれるか」「シートは何枚あるか」。電話の向こうの職人と、保温の段取りを詰める。出荷の温度と現場の保温は、一本につながった一つの仕事なのだ。
強度試験にも、冬の補正が入る。テストピースは標準養生といって、二十度の水の中で育てる。だが現場のコンクリートは、その日の寒さの中で固まる。標準養生と現場養生では、強度の出かたが違う。だから冬は、現場の脇にもう一組の供試体を置いて、現場と同じ寒さで育てる。標準養生のテストピースが温かい水の中で順調に育っていくあいだ、現場養生のほうは、外で凍えながら、ゆっくり強くなっていく。冬の供試体には、二つの世界がある。
雪の日は、配車が崩れる。タイヤにチェーンを巻けば速度は落ちる。坂で立ち往生する車も出る。九十分という線は雪道とすこぶる相性が悪い。練ってから現場まで、いつもの倍かかることもある。雪の朝、私は窓の外の降りかたを見ながら、便と便の間隔を広げ、近い現場から順に出していく。時間と温度の両方を、同時に天秤にかける。冬の配車は、つくづく難しいものだと思う。
春の打設は、冬を越えたあとだと、ずいぶん楽に思える。蒸気もヒーターもいらない。ただ気温が、味方をしてくれる。冬を一つ越えるたびに、現場の職人とのあいだに、口にはしない何かが残る。寒い朝をいっしょにくぐった者どうしの、共有の感覚のようなものだ。あの寒さを知っているという、それだけのつながり。
二十二年、いくつもの冬を越えてきた。温度との闘いが、冬のコンクリートなのだ。凍らせないように材料を温め、冷える分を逆算して出し、現場と保温を相談し、雪の朝に間隔を広げる。寒い季節を段取りで乗り越えることが、私の冬の仕事だった。今日もどこかのプラントで、誰かが白い息を吐きながら、温度と競走しながら、街の礎を温めている。
——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。