九十分の、段取り
生コンプラント一年目、時間と競走すると決めた日

ウスダマコト(44歳・生コンプラント出荷管理22年)

生コンクリートは生ものだ。練り混ぜてから現場で打ち込むまで、九十分という持ち時間がある。JISで決まっている。それを過ぎたコンクリートは、固まり始めて、もう商品ではなくなる。私はこの二十二年、その九十分と競走しながら、街のコンクリートを段取りしてきたのかもしれない。

二〇〇四年の春、二十二歳で生コンプラントに入った。配合、練り混ぜ、ミキサー車の配車、現場との調整。最初の朝、所長に出荷の事務所へ呼ばれた。窓の外にはプラントのサイロがそびえ立ち、空気にはセメントの乾いた匂いが静かに満ちていた。所長は私を見て、こう言った。「生コンは生ものだ。九十分で死ぬ。うちの商品は、時間ごと売ってるんだ」。

注文は数字で来る。強度とスランプ。強度は固まったあとの硬さ、スランプは練ったときの柔らかさ。水とセメントと砂と砂利を、どんな比率で混ぜるか。その比率の言葉が配合だ。私は配合表を覚えるのに、ずいぶん時間がかかったと思う。水を増やせば柔らかくなって流しやすいが、固まったあとは弱くなる。どこかを立てれば、どこかが下がる。そういう商売だった。

朝がいちばん難しかった。何台ものミキサー車を、どの現場へ、何時に出すか。現場の打設の進み具合と、車の回転を合わせなければならない。早く着きすぎれば九十分の時計が現場の前で回ってしまうし、遅れれば現場の職人が手を止めて待つ。無線から現場の声が入るたびに、私は配車を組み替えた。生き物のような一日だった。

試験練りの立ち会いも仕事だった。スランプ試験は、円錐の型にコンクリートを詰めて、型を抜く。どれだけ崩れて下がったか、その高さを測る。固まる前の検査だ。それからテストピースを取る。円柱に詰めて、何日か養生して、つぶして強度を測る。固まったあとの検査だ。固まる前と、固まったあと。同じコンクリートを、二度、違うやり方で見る。

季節でも配合は変わる。夏は暑中コンクリート、冬は寒中コンクリート。暑いと水が早く飛んで、九十分を待たずに固まり始める。寒いと固まるのが遅れて、強度が出るまで時間がかかる。同じ強度の注文でも、七月と一月では混ぜるものが違う。気温というのは、書類には出てこないが、いちばん大きな注文主だったのかもしれない。

夕方には現場から車が戻ってくる。打ち切れずに余ったコンクリート、残コンだ。固まる前に処理しなければならない。だから発注の段階で、現場が何立米いるかを、職人と何度もやりとりして詰める。多すぎれば捨てる金がかかり、少なければ現場が止まる。残コンの量は、その日の段取りの成績表のようなものだった。私はその数字を、毎日帳面につけていた。

あの日、所長の「九十分で死ぬ」という言葉を聞いてから、私は時計の見え方が変わった。街を歩いていても、橋を見ても、ビルを見ても、その中のコンクリートが、どこかのプラントで誰かの九十分を背負って運ばれてきたのだと思うようになった。私たちは、街の礎を、時間と競走しながら作っているのだ。

あれから二十二年、私はずっと持ち時間の観察者になった。固まり始める前の、ほんの短い時間の中で、街は段取りされていく。九十分という持ち時間が、俺をいまの俺にしてくれた。今日もプラントのサイロは、静かにそびえ立っている。

——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。

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