鳥の、痕(第二稿)
機体を診る人と、空を追う人。二つの報告書が一つになる

ウタガワヒビキ(45歳・小型機の航空整備士23年)

着陸した機が止まると、オーナーパイロットが窓を開けて言った。「鳥に当たったかもしれない」。かもしれない、で点検は発動する。本人は当たった瞬間を見ていない。視界の端を白いものがよぎった、それだけでいい。当たったかどうかを決めるのは、これから機を一周する私のほうだ。痕が無ければ、無かったと記録する。それも結論のうちだった。

探す場所は決まっている。鳥は前から来るから、痕は風に向かう面に出る。カウルの前縁、主翼の前縁、プロペラのスピナー。私は脚立を運び、前縁を端から指でなぞった。右の主翼の付け根の手前で、指が止まる。乾いた血が一筋、塗装の上で黒く固まり、そのまわりに羽毛が二枚、油の膜に貼りついていた。当たった場所は、ここだ。

羽毛を見ていると、滑走路の側から人が歩いてきた。ハットリチアキさん、空港のバードパトロールを十一年やっている人だ。手にビニール袋を提げている。私の指す前縁の痕を見て、それから袋を持ち上げた。中に灰色がかった羽の塊。「滑走路の中ほどで回収した。これと、その羽、同じだと思う」。空を追う側と、機体を診る側が、一羽の鳥のところで出会った。

ハットリさんは袋の口を開けて、風切羽を一枚つまみ出した。先の黒い縁取りと、軸の太さ。「ムクドリ。嘴の黄色が残ってれば確実だけど、これはもう要らない」。種がわかれば対策になるのだ、と言う。ムクドリなら群れで、夕方、刈った草地に降りる。トビなら単独で、昼、上昇気流に乗る。いつ・どこに・どう集まるか。当たった一羽は、ハットリさんにとって事故ではなく、次を減らすためのデータだった。

記録を突き合わせた。私の手元には、機体のどこに何センチの痕があったかの図。ハットリさんの手元には、何時何分にどの位置で群れが上がったかの記録。痕の高さは地上から二メートル少し、群れが上がった高さもそのあたり。数字が合った。機体の傷の位置と、鳥の群れの行動。二つの報告書が、ここで一つの事案になる。私は機を見ていて、ハットリさんは空を見ていた。同じ一羽の鳥を、別々の方向から見ていたのだ。

防除の道具の話も聞いた。鳥の嫌う音を流す装置、本物の鷹を飛ばして散らす鷹匠、人が車で回るパトロール。音には慣れられる、鷹は雨だと飛ばせない。道具を一通り並べたあとで、ハットリさんは「結局いちばん効くのは人の目」と言って、少し黙った。諦めとも矜持ともつかない顔だった。私はボルトの値で境目を決める人間だから、空を追う道具の世界は知らない。だがその「人の目」だけは、私の仕事と同じ語感だった。

あとは点検の解除だ。血と羽は拭けばいい。問題はその下だ。私は前縁のスキンを指でなぞり、凹みを探す。次に内側へ手を入れ、リブと前桁に変形がないかを確かめ、当たった面の取り付けボルトのトルクを掛け直して、規定の値で止まるのを確認した。緩みなし、変形なし。鳥は柔らかいが、二メートルの高さで二百キロの相対速度なら、骨は構造を凹ませる。だから指だけでは終われない。傷なし——記録にそう書いて、署名する。

待っていたパイロットに、私は「飛ばして大丈夫です」と言った。淡々と言う言葉だ。その一言の下には、なぞった前縁、規定値で止まったトルク、合致した二つの報告書が積んである。ハットリさんは袋を提げて、滑走路のほうへ戻っていった。これからまた、刈った草地に降りる群れを見に行くのだろう。私は機体に手を置き、ハットリさんは空を見上げる。一機が飛ぶまでに、私の知らない目が、もう一つ要っていた。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。