部品の、待ち(第二稿)
海の向こうから来る、手のひらの金属を待つ

ウタガワヒビキ(45歳・小型機の航空整備士23年)

納期のメールは、そっけない。Estimated lead time、4–6 weeks。四週から六週。国内に在庫のないこの部品は、メーカーへ発注し、海の向こうから取り寄せになる。私はその英字を二度読んで、整備記録のいちばん新しいページに、発注日と部品番号を書き写した。きょうから、この機は飛ばない。

AOG、と業界では言う。Aircraft on Ground——地上にある航空機。飛べずに止まっている機体のことだ。オーナーパイロットに電話を入れた。「部品待ちです。早くて四週」。受話器の向こうで、彼は予定表をめくる音をさせ、それから「わかった」とだけ言った。飛べない四週は、私の段取りだけでなく、この人の四週でもある。私は経過報告の日付を、手帳に四つ、先に書き込んだ。

代用はできないかと、オーナーは一度だけ訊いた。見た目のそっくりな金具を指して、「これでは駄目なのか」と。駄目だ。形が同じでも、その部品には Part Number と Serial Number がある。番号は設計図につながり、強度試験の成績につながり、最後に私の署名につながっている。番号の一文字が違えば、つながる先がすべて違う。番号のない部品を付けるのは、名前のない人間を機体に乗せるのと同じだ。私はそう言って、そっくりな金具を工具箱の奥にしまった。

待つあいだ、来た日に一気に付けられるよう、周辺を先に開けておく。古い部品を外せるところまで外し、抜いたボルトはトレーに並べて、外した順に付箋へ通し番号を振る。1から7。戻すときは7から1だ。当たり面を磨き、来たら付けるだけ、という状態にして、開いたカウルには養生のシートを被せておく。やることを使い果たすと、あとは、待つしかなくなる。

毎朝、格納庫に着くと、まず追跡番号を打つ。十二桁の運送会社の番号だ。時差で更新は深夜に動くから、朝の画面に出るのは前日の状態でしかない。HKG 経由、と出た日があった。香港を抜けたという意味だ。翌朝は NRT、成田。税関の表示が「通関手続中」で二日動かず、私は二日とも、同じ画面を見て格納庫の鍵を開けた。地球の裏から来る金属が、いまどの空港の倉庫で夜を越したか。それを確かめてから、私の一日は始まった。

箱は、思ったより大きく届く。署名して受け取り、開けると、緩衝材、密封袋、乾燥剤、また密封袋。何重もの奥に、部品は一つだけ収まっている。手のひらに乗せると、軽い。指で挟めるほどの金属の片だ。同梱の請求書の桁を見る。この軽さで、私のひと月の手取りの数倍ある。重さと値段が噛み合わない。値はこの金属の目方にではなく、つながっている番号のほうに——図面と試験成績と認証のほうに、ついている。手のひらの軽さは、その証明書の軽さではない。

取り付けは、一時間で終わる。先に7まで外してあったから、戻すのは7から1へ、迷う場面はない。新しい部品の番号を整備記録に書き写し、規定値でボルトを締め、緩む方向に張ってワイヤーロックを掛ける。あれだけ待った四週が、この一時間の中に畳まれていく。最後に、署名欄にペンを置いた。ペン先が紙に触れる、その一瞬だけ、四週の重さが指に戻ってきた。

翌朝、オーナーが来た。「大丈夫?」。私は、図面につながる番号、二日動かなかった通関の画面、手のひらの軽さ、7から1へ戻したボルトを順に思い出して、「大丈夫です」と言った。発注のメールから、ちょうど四週と二日だった。今日も、いつものボルトに手を置く。冷たい。番号は、つながっている。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。