研究室4人の批判を受けて書き直した第二稿。客のステレオタイプを崩し、メタな自己観察を抜き、廃棄業務の事実精度を上げた。
ナリタケイスケ、三十五歳。深夜のコンビニで、レジに立っている。
誰もいない。
ホットケースの中で、肉まんがガラスに湿気をつけている。空調のファンが低く回っている。
俺はカウンターの内側で、両手を擦る。レジは触らない。客がいないとき、レジに手を置くと変な癖がつく、と社員から言われた。
二十二時台はそこそこ客が来る。終電の終わる二十四時半すぎから、流れが減る。二時台がいちばん静かだ。
レジから出て、バックヤードに入る。冷蔵棚を見て、消費期限が今日中のものを、棚から下ろす。サンドイッチ、おにぎり、サラダ、惣菜パン。廃棄バッグにまとめて、レジで廃棄処理のボタンを押す。POS が一品ずつ拾っていく。十五分ほどで終わる。
七年やっている。
入ってきたのは、五十代の男だ。タクシーの運転手。会社のロゴの入ったジャンパーを着ている。男は缶コーヒーの棚に直行する。火曜と木曜にだいたい来る。水曜には来ない。
レジに来る。
「ありがとうございます。」
「あ、どうも。」
男は缶を持って外に出る。タクシーは少し離れた路肩で、ハザードを点けている。乗り込む。発車する。
俺は男の顔を覚えていない。何度も来ているのに、覚えない。向こうも俺の顔は覚えていない。それで終わっている。
女が一人、入ってくる。スーツ。三十前後。書類のクリアファイルを抱えている。クリアファイルの中身は折れている。
女はまっすぐ温かい飲み物のコーナーに行って、五分ほど立ち止まる。手には商品を取らない。ペットボトルを順に見て、棚に戻し、また見る。
結局、お茶のペットボトルを一本だけ取って、レジに来る。
「袋、いりません。」
そう言うと、レシートも受け取らずに、ドアを出た。タクシーには乗らなかった。歩いて、駅と反対の方向に行った。
俺は、何の仕事だろう、と思いかけて、思うのをやめた。深夜のスーツの女のことは、考え始めると止まらない。
大学生、男女二人。声が大きい。昼間と同じ声量で話している。
「これ、どっちにする?」
「うーん、どっちもじゃない?」
二人は菓子の棚で五分ほど迷う。いま店内には俺と二人しかいないので、声がよく響く。
レジに来る。
「お会計、別々で大丈夫ですか?」
男のほうが、はい、と言う。それぞれ、四百円弱を支払う。二人は袋に入れず、そのまま持って出る。
外に出てから、女のほうが「これ、半分ね」と言うのが聞こえた。
警察官。一人。地域課の制服。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
レジ周りまで来て、深夜帯巡回確認のサインを書いて、手帳に挟む。
「異常、ないですね?」
「ないです。」
警察官は店の奥を見渡して、出ていく。自転車に乗って去っていく。
雑誌コーナーに行く。今日の昼便で来た新しい号を、棚に差し直す。古い号は別の棚に。表紙を揃える。
ホットケースを覗くと、肉まんはまだ売れていない。あんまんも、ピザまんも、売れずに残る日と、急に売れる日がある。傾向はないと思う。
雑誌の表紙を揃え終わる。次の客は、まだ来ない。
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本作は新シリーズ「夜勤の人たち」初号・第二稿。第一稿への研究室4人の批判(客3組のステレオタイプ等間隔・冷気と湿気の対称構造・廃棄処理の説教的トーン・「観察する俺」のメタ位置・コンビニ業務の事実誤認)を受けて、以下を改訂:(1) 冒頭の経歴情報を最低限に圧縮、(2) 結語の温度反復を削除、(3) 客3組のうち真ん中をスーツの女性に差し替えて期待を外す、(4) 時刻の等間隔表記を削除して「ドアが開く」の繰り返しに、(5) 警察官の段の「ありがたい」「夜の店の安定」を削除、(6) 廃棄処理を「フィルムを破ってバケツ」から「廃棄バッグ+POS処理」に修正、(7) 業務時間を30分から15分に修正、(8) 廃棄段のモノローグを「七年やっている」だけに圧縮、(9) 巡回頻度の特定を削除、(10) 「思う/思わない」の二重構文を削除。