02:30 のレジ前
夜勤の人たち #1:深夜のコンビニ

新シリーズ「夜勤の人たち」初号。深夜コンビニ店員ナリタケイスケ(35歳・首都圏)の、1月下旬の火曜の真夜中30分間。

ナリタケイスケ、三十五歳。私鉄沿線の駅前のコンビニで、火・水・木の二十二時から翌五時まで、レジに立っている。それ以外の日は家で書籍の校閲をしている。出版社で正社員だったのは三十一の年までで、辞めてから七年目になる。

02:30、レジ前

誰もいない。

ホットケースの中で、肉まんが少し汗をかいている。湿気がガラスにつく。自動ドアの上の電光表示は、外気温四度。店内は二十二度。空調のファンの音が、ずっと、低く回っている。

俺はカウンターの内側で、両手を擦る。指先が冷たい。レジは触らない。客がいないとき、レジに手を置くと変な癖がつく、と社員から言われた。だから手は腰の高さで遊ばせる。

二十二時から二十四時までは客がそこそこ来る。終電が止まる二十四時半すぎから、急に流れが減る。二時台がいちばん静かで、たまに長距離トラックの運転手が缶コーヒーを買いに寄るくらいだ。

バックヤード

レジから出て、バックヤードに入る。冷蔵の棚卸し。明日の朝便は四時十五分着。それまでに、いま並んでいる弁当・サンドイッチ・サラダ・惣菜パンのうち、消費期限が今日中のものを抜く。

廃棄。ビニール手袋を二重にして、サンドイッチのフィルムを破って、中身だけ廃棄用のバケツに入れる。フィルムは別のゴミ袋。本部からの指示で、こうなっている。フィルムが破れているサンドイッチは再販しない。それはわかる。しかし、まだ食べられる。それも、わかる。

毎晩、これを三十分かけてやる。昔は持ち帰っていいと言われていた、と社員から聞いたことがある。今は禁止。法律ではなく、本部の方針らしい。

俺はサンドイッチを破る作業に、もう、何も思わなくなっている。最初の一ヶ月だけ、少し、何かを思った。今は、フィルムの剥がし方が早くなっただけだ。

02:38、自動ドア

入ってきたのは、五十代の男だ。タクシーの運転手。会社のロゴの入ったジャンパーを着ている。緑色。たぶん最寄りの営業所のだ。

男はまっすぐ缶コーヒーの棚に行く。微糖の、いつもの。火曜と木曜にだいたい来る。水曜には来ない。なぜ来ないかは知らない。

レジに来る。

「ありがとうございます。」
「あ、どうも。」

それだけ。男は缶を持ってドアを出る。タクシーは少し離れた路肩に止まっていて、ハザードが点いている。男は乗り込む。発車する。

俺は男の顔をいつも覚えていない。何度も来ているのに、覚えない。たぶん向こうも俺の顔は覚えていない。それでいい、と思う。覚えると面倒くさい。

02:45、自動ドア

二人。男女。大学生くらい。たぶんファミレス帰りだ。少し前に、二駅向こうのファミレスが深夜帯を再開したと張り紙で見た。

二人は声が大きい。眠そうではない。昼間と同じ声量で話している。

「これ、どっちにする?」
「うーん、どっちもじゃない?」
「両方買う?」

二人は菓子の棚で五分迷う。プリッツの新しい味と、チョコの新しいブランド。いま店内には俺と二人しかいないので、声がよく響く。

レジに来る。

「お会計、別々で大丈夫ですか?」

男のほうが、はい、と言う。

それぞれ、四百円弱を支払う。レジの音、商品をスキャンする音、レシートが出る音。二人は袋に入れず、そのまま持って出る。

外に出てから、女のほうが「これ、半分ね」と言うのが聞こえた。半分こ。前提が崩れている。最初から半分こするつもりなら、別々で買う必要はない。

俺はそういうことを、レジ越しにときどき思う。思うけれど、思っただけで、すぐに頭から離れる。

02:52、自動ドア

警察官。一人。地域課の制服。腰のベルトが鳴る。

「お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」

巡回。レジ周りまで来て、カウンター越しに、深夜帯巡回確認のサインだけ書いていく。月に二度くらい、不規則な時間に来る。

「異常、ないですね?」
「ないです。」

警察官はサインの紙を二つ折りにして、自分の手帳に挟む。

「最近、この時間、変な人来てます?」
「いえ、特には。」

少し、目で店の奥を見渡して、出ていく。自転車に乗って去っていく。

俺は警察官をときどきありがたいと思う。たぶん、彼らもそんなに何かを期待してこの巡回に来ているわけではない。ただ、来ている。誰かが定期的にここに目を向けているということ自体が、夜の店の安定に効いているのだろう、と思う。

03:00

雑誌コーナーに行く。今日の昼便で来た新しい号を、棚に差し直す。古い号は別の棚に。一冊ずつ、表紙を揃える。漫画雑誌、週刊誌、月刊誌、車の雑誌、釣りの雑誌。

ホットケースを覗くと、肉まんはまだ汗をかいている。あんまんも、ピザまんも、売れずに残る日と、急に売れる日がある。傾向はないと思う。客は、来るときは来る、来ないときは来ない。

次の客は、たぶん、四時半の新聞配達員だ。それまで、雑誌、サンドイッチの片付け、床の確認、レジの細かい打鍵練習、と、することはある。することはあるが、することがないとも言える。

外気温は四度のままだ。店内は二十二度のままだ。指先は、まだ少し冷たい。

→ 第二稿:02:30 のレジ前(v2・書き直し)
→ 研究室4人による建設的批判
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本作は新シリーズ「夜勤の人たち」初号・第一稿。深夜コンビニで火・水・木の22:00–翌5:00を働くナリタケイスケ(35歳・元出版社員・現フリーランス校閲)の、1月下旬・火曜の02:30から03:00までの30分間を描く。客が途切れた時間帯のレジ前、バックヤードでのサンドイッチ廃棄処理、02:38に来る五十代タクシー運転手(缶コーヒー微糖)、02:45の大学生カップル(菓子を別々会計、出てから半分こ)、02:52の地域課警察官(巡回確認サイン)、03:00以降の雑誌整理。一人称「俺」、ぼそぼそした口調。「夜の街」を浪漫化せず、労働の身体感覚(指先の冷え、ホットケースの湿気、空調の音)を主軸に通す。

このページの記事はAI(Claude)を用いて作成・編集されています。登場人物・場面はフィクションです。