ヤシマフウタ(41歳・選果場オペレーター19年)
最終のケースが出口を抜けると、私はメインの電源を落とす。一日じゅう鳴っていたモーターとローラーの音が消えて、ホースから滴る水と、ベルトの上に落ちるしずくの音だけになる。ここから、もう一つの仕事だ。昼に機械が浴びた果汁と埃を、夜のうちに落とす。これが終わらないと、明日の一個目は流れない。
止まったベルトに、果汁が筋になって残っている。今日は桃だった。桃の汁は、乾くと薄い飴になる。爪を立てると、ぱりっと一枚で剥がれて、内側に埃を抱いている。みかんの日はこうはいかない。皮の油が膜になってベルトに張りつき、水だけでは弾かれて、洗剤を含ませた布でこすると、ようやく曇りが取れる。ぶどうの日は、果皮の色がゴムに移って、洗っても薄い紫が翌朝まで残る。どの品種の日だったかは、ベルトを見れば、嗅がなくてもわかる。
水をかけてよい部品と、かけてはいけない部品がある。ベルトもローラーもコンテナも、ホースで思いきり流す。光センサーの箱だけは別だ。基板に水が入れば、糖度の数字が狂う。レンズには、専用の布をぬるま湯で湿らせて、外から内へ円を描いて、力をかけずに拭く。果汁の薄い膜が一枚、レンズの上で通過光をにぶらせている。この一枚を残すと、明日の桃が一度ぶん甘く出る。ここだけは、ホースが届かない。手でしか落とせない。
洗いながら、指で点検する。ベルトの継ぎ目に指の腹を当てて、端から端まで送る。継ぎ目が一ミリめくれていれば、翌朝そこに果物が引っかかって、ラインが止まる。朝の千五百ケースが、夜のこの一ミリで止まる。だから目より先に、指で機械にさわる。
ローラーは軸を一本ずつ回して、音を聴く。正常な軸は、すうっと一定の低い音で回りきる。当たりの出た軸は、回転の途中で「こ、こ」と短く引っかかる音が混じる。出口側のローラーは、桃の重みを毎日いちばん受けるから、決まってそこの軸が先に鳴りはじめる。十九年やっていると、何番のローラーが今年もそろそろだと、回す前から手が身構える。
みかんが終わって苺に替わる週は、ラインを分解する。ローラーを外し、ベルトを抜き、軸受けの一つずつまでばらして洗う。みかんの油を残したまま苺を流せば、苺に油の匂いが移る。組み直して、苺の柔らかさに合わせてローラーの幅を詰め、送りを遅くし、センサーの基準を入れ替える。三日かかる。ばらした部品が床に並んでいるあいだ、選果場はラインの形をしていない。
洗い終えたラインは、水を切って朝まで乾かす。翌朝シャッターを上げると、建屋には乾いた匂いが満ちている。昨日の果汁の湿った匂いではない。洗って乾いた、ゴムと水の匂いだ。その匂いのなかで電源を入れる。モーターが立ち上がり、ローラーが回りはじめる。今日の一個目を、出口の方へ送り出す。