本稿は山田花・移動教室の雑談シリーズ #6 として、三人の母親の口癖が「答えを知っていて聞く」という点で一致して意気投合する短編。シリーズの中では珍しく、三人が同じ温度で並ぶ作品。研究室の四人から建設的批判を集めた。
三人、ちょっと笑った。
シリーズ全体に共通する短い台詞と改行は、本作でも生きている。ただ、三人が同じ温度で並ぶ場面が中盤に集中するため、後半の「廊下、半分」「教室の前」が、温度の起伏なく流れすぎる。中盤で意気投合した直後に、誰か一人が一瞬、少し違うことを言う、というリズムの揺らぎが欲しい。たとえばリオが「うちの母、最近、優しく感じる」の前に、一度だけ少し不機嫌な顔を見せる、など。意気投合の質感を、全員一致の和音ではなく、ほぼ一致した三声のずれとして書く方が、シリーズの観察の精度に合う。
『靴下、ちゃんと脱いだ?』『手、洗ってきた?』『おばあちゃんに、電話、した?』
三つの口癖が並んだ時、それぞれが「家族関係のどの薄い縫い目」を縫っているかは、もう少し書き分けてほしい。靴下は「身体の清潔」、手は「外から内への移行」、おばあちゃんへの電話は「世代の距離」。三つは並列ではない。後者二つは前者と射程が違う。リンの「答えを変えたいんじゃなくて、聞く動作だけ、欲しいんだと思う」という分析は本作の核だが、三つの口癖の性質の違いに踏み込めば、もっと深い観察になる。第二稿では、リンの分析を二文に拡張するか、もしくは沈黙のまま深いまま閉じる選択をするか、どちらかに振ってほしい。
「うちの母、それで、最近、ちょっと優しく感じる」とリオが言った。
リオの最後の一言は良い。母の口癖を「優しさ」と読み直す瞬間に、本作のテーマが立ち上がる。ただ、なぜリオが先に気付いたのか、本作では十分に描かれていない。リオは父がデンマーク式の弁当を作る家庭(#5 hana-bento)で、家庭の習慣を相対化して観察する目を持っているはず。その背景がここで生きるはずだが、第一稿では言及されていない。第二稿で、リオが先に「優しく感じる」と気付く理由——たとえばリオの父の口癖は別の種類だから、母の口癖の独自性が見える——を、一行だけでも示唆できれば、シリーズ内の家庭設定が立体的になる。
「答えを変えたいんじゃなくて、聞く動作だけ、欲しいんだと思う」
リンのこの分析は、高校二年の声としては、少し成熟しすぎている。普段の雑談シリーズで、高校生たちは観察を「言わずに気付く」ことが多く、明示的な分析を口にする場面は少ない。本作はリンの一行で意気投合が確定するが、これは語り手(花)の内省として置く方が、シリーズの声のリアリティに合う気がする。または、リンが言うのではなく、リンの祖父がいつか言っていたこと、として一段引いた形にすると、リンの中華系のルーツと接続して、シリーズの厚みが増す。
四人の指摘を統合すると、第二稿の改稿方向は次の通り:
本作はシリーズの中で珍しく、三人が意気投合する温かい一篇となっているので、その温度感を保ちつつ、観察の精度を一段上げる。