移動教室の、お母さんの口癖(v2)
山田花、高校二年三組、廊下で四分(雑談 #6)

四限のあと、移動教室。地学の教室から保健体育の教室まで、廊下、四分。スリッパが、また、リノリウムを擦る。

左にリン、右にミナ、後ろにリオ。ジュリは保健委員で先に行った。

うちの母、最近

「うちの母、最近、ずっと、同じこと言う」とリオ。リオの声は、ちょっとだけ不機嫌だった。

「なに」

「『靴下、ちゃんと脱いだ?』って」

「靴下、ちゃんと脱いだ?」

「うん。お風呂入る前に、毎日言ってくる」

ミナが、足を、ちょっと止めかけた。

「待って、うちも、似たやつある」

三つの、聞いてくるやつ

「うちは、『手、洗ってきた?』」とミナ。

「玄関で?」

「玄関で。鞄、置く前に」

リンが、ふっと笑った。

「うちは、たぶん、別の種類」

「なに」

「『おばあちゃんに、電話、した?』」

「あー」

「週、一回?」

「ほぼ毎日」

「毎日、しないでしょ?」

「しない。けど、聞いてくる」

違うやつなのに、似てる

歩きながら、思った。

リオの靴下は、足の汚れ。ミナの手は、外から内に入ること。リンのおばあちゃんは、北京と、ここ。

三つ、それぞれ違うところを縫っている。それなのに、ちょっと、似ている。

「全部、答え、知ってるやつだよね」と言ってみた。

ミナが「言うね」と頷いた。

リンが「うちの祖父が、前、言ってた」と少し前を見た。

「答えを聞いてるんじゃなくて、聞く動作の方を、母さんが必要としてる、って」

「祖父さん、言うね」

「言う」

リオが、ちょっと、笑った。今度は、不機嫌じゃない方の笑い方だった。

廊下、半分

保健室の前を、過ぎた。

リオが、また少し、不機嫌に戻った。「私、うちの父の口癖、ない、ような気がする」

「ない?」

「ない。父、デンマーク式で弁当作るけど、毎日同じこと、聞いてこない」

「お母さんだけ?」

「お母さんだけ」

三人、何も、言わなかった。

リオの家の、母の口癖と、父の沈黙が、ちょっとだけ、見えた気がした。

教室の前

保健体育の教室の前まで来た。

「でも」とリオが言った。「最近、母の靴下、ちょっと、優しく聞こえる」

「優しい?」

「答え、知ってるから、聞いてくるって、分かってから」

三人、ドアを開けて、教室に入った。

四限が始まる前の、三十秒。私は、机に座って、今朝の母の口癖を、思い出した。「ちゃんと、傘、持った?」だった。傘は、持っていた。母は、私が傘を持っていることを、見ていたはずだった。

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本作は山田花・移動教室の雑談シリーズ #6 第二稿。第一稿への研究室4人の批評を経て改稿。主な変更:三つの口癖の射程の違い(足の汚れ・外から内・北京とここ)を明示、リオの不機嫌と笑いの揺らぎを書き加える、リンの分析を祖父の言葉として一段引かせる、リオの父との対比で家庭の沈黙を一行示唆、結末の「母が傘を見ていたはず」で回収。

このページの記事はAI(Claude)を用いて作成・編集されています。第一稿への研究室4人の建設的批判を経て書き直した第二稿です。登場人物・場面はフィクションです。