同じ鍵(第二稿)
研究棟の会議室と、ホームセンター、十二月の火曜(新人篇)

日曜の夜、研究棟三階の研究室に泥棒が入り、修士二年の学生のノートパソコンが一台なくなった。火曜の午後、研究棟の小会議室。研究室の安全管理の事務局として、研究支援課の波多野ひよりが記録を取る。学務課の梶田は、講義室の鍵の担当として呼ばれている。被害にあった研究室の教員(四階の先生)が来ている。課長は遅れている。

被害

先生修論の締切が一月の終わりで。データの半分は研究室のサーバーにあった

ひより残りの半分は

先生あのパソコンの中にだけ。学生は今、測定をやり直してます。三か月分

梶田……つらいですね

先生学生に言ってください。私じゃなくて

ひより研究室の鍵は、何本ありましたか

先生学生全員に一本ずつ。九本と、私の

ひより十本。返却の記録は

先生ないです。配ったのは私です。卒業のときに返してもらう、ということになってたけど、毎年、一本か二本は戻らない。催促したことは、ない

ひよりじゃあ、何本出回ってるか分からない

先生分からない。……書いてください、それも

ひより書きます

先生ドアは開いてました。鍵で開けたのか、学生の誰かが閉め忘れたのか、分からない。分からないままのほうが、学生には、いいのかもしれないけど

ひより、打つ手を止めずに打ち続ける。

電子錠

ひより研究棟の部屋は八十六です。全部をカードの電子錠にすると、入った人と時刻が残ります。工事込みで一部屋十四万

梶田八十六で

ひより千二百万と少し

梶田通らない

ひより通らない前提で出します。出さないと、検討しなかったことになるので

先生電子錠は、うちの階に一つ試しに入ってるんですよ。去年

ひよりどうですか

先生電池が切れて、三日、誰も入れなかった。電池が少ないって、ずっと鳴ってたらしい。替える係が、決まってなかった

ひより係を決めます。電池の交換の記録も

梶田その係、学務課に来ないよね?

ひより研究棟の管理だから、施設課

梶田よかった

北のほうの国

先生友人の話をしていいですか。北のほうの、人口の少ない国で博士をとった人で

ひよりどうぞ

先生その審査会の前の晩に、学部に泥棒が入って、審査を受ける学生のパソコンが盗まれた。審査会は延期。で、鍵は替えなかった。面倒だから、と

梶田替えなかった

先生外から来た友人に渡された鍵が、教員の部屋が全部開く鍵だった。全員同じ鍵なんです。なんでと聞いたら、論文を印刷して相手の机に置くのに、鍵がないと置けないじゃない、って

ひより……それ、議事録に書いていいですか

先生書いてどうするんですか

ひより分かりません。書いておきます

先生友人はその国の銀行の口座を、帰国するとき閉じ忘れて、電話を一本かけて閉じたそうです。番号を一つ言ったら、その場で。残高が少しありますけど閉じちゃっていいですか、と聞かれて、いいです、で終わり

梶田こっちなら、窓口に来てください、ですね

先生うちの学生は、今、窓口に来てください、を三か月分やり直してるんですよ

先生、笑わずに言う。梶田は自分のペンの蓋を閉める。

届出

課長からの連絡で、会議は散会になる。先生が出ていく。ひよりは、紙の束を鞄から出す。

梶田それ何

ひより鍵の保有届。課の全員分。総務が、紙で、押印で、鍵の刻印の番号まで書いて、って

梶田番号まで

ひより書いてきたの、杉浦さんだけ。全部の鍵に、番号

梶田見ていいの、それ

ひより回収したのは私

梶田俺は見てないことにして。……事務棟、通用口、書庫、研究支援課、課の金庫。最後の行、「旧金庫鍵 一本 刻印『2』(二〇〇四年三月まで使用)」

ひより旧金庫は、備品台帳から消えてる。消えた金庫の鍵を、届けてる

梶田律儀

ひより届けてもらっても、台帳に載せる場所がない

ひより、届出をクリアファイルに戻す。杉浦の分だけ、いちばん上に置き直す。

合鍵のカウンター

同じ日の夕方、駅の近くのホームセンター。合鍵と錠前のカウンター。講義室の備品庫用に、番号式の南京錠の見本を買いにきた二人。係の女性が一人。胸に「ツツミ」。

ひより番号式の南京錠、三桁と四桁で迷ってて

ツツミ四桁にしてください。三桁は千通りです。一晩あれば、手で全部回せます

梶田一晩

ツツミ回したことはありません

ひより電子錠の電池は、どのくらいもちますか

ツツミこの棚のものなら、一日十回の開け閉めで一年半です。切れる前に音で知らせます

ひより知らせても、替える人がいなかったそうです

ツツミそういうお問い合わせは、多いです。非常用の鍵穴がついてますけど、その鍵をどこにしまったか分からなくなる方も

梶田、四桁の箱を二つ取って、カゴに入れる。

ツツミ番号は、最初は〇〇〇〇です。ご自分で決めてください

ひより課長に決めてもらいます。決めた人が分かるように

ツツミ決めた番号は、紙に書いて貼らないでください。紙から開きます

ひよりじゃあ、どこに残すんですか

ツツミ決めた方が覚えておきます

ひより……覚えておく、は、記録に残らないです

ツツミはい

梶田課長、たぶんそれ、俺に振るよ。「梶田くん、決めといて」って

ひよりそしたら、梶田くんが覚えておく係

梶田やだよ。何かあったら、俺が開けたことになる

ツツミ、レシートを出す。ひよりは受け取って、黙って財布にしまう。

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このページの記事はAI(Claude)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。登場人物・場面はフィクションです。