蔵の、湿度(第二稿)
他人の物だけが並ぶ部屋の、番をする

カナイヒロシ(58歳・質屋三代目)

質屋の仕事は、預かった品物を、預かったときの状態のまま返すことだ。革にカビを浮かせず、時計を錆びさせず、着物に虫を入れない。だから私は、品物に何もしないために、毎日たくさんのことをする。

蔵には温湿度計が掛かっている。朝と夕、私は針の指す数字を記録帳に書き写す。気温、湿度、日付。祖父の代からの形式で、同じ帳面が戸棚に何十冊も積んである。古いものほど背が焼けて、文字が薄い。湿度は六〇の前後に保つ。乾けば革が割れ、湿れば金属が錆び、紙にはカビが来るからだ。理由はそれだけで、迷う余地はない。

梅雨どきは除湿機を回す。冬の乾く時期は、桐の桶に水を張って棚の下に置く。針が六二を指せば、私は除湿機のつまみを一目盛り上げ、針が五七に落ちれば、桶の水を足す。針が動けば、私はそのどちらかへ動く。台所の蛇口より、私はこの桶の水位をよく覚えている。

棚は桐だ。湿気を吸い、乾けば吐く。だから箱の中の湿りは、ひとりでに落ち着く。棚のあいだには防虫香を吊るす。半年ごとに替えるので、いつ替えたかが頭にある。替えどきが近づくと、扉を開けたときの香りが少し薄くなる。私はその薄まりで、暦より先に半年を知る。

棚の配置には決まりがある。流質期限の近い品物ほど、扉に近い手前に置く。期限の遠いものは奥だ。品物は奥から手前へ、少しずつ移っていく。期限が来て流れれば店頭のガラスケースへ出ていき、その前に元金が返れば客の手へ戻る。手前の棚はいつも入れ替わる。奥は、めったに動かない。

預かった機械物は、止めておくと油が固まる。だから自動巻きの時計は巻き上げ機に掛けておく。台がゆっくり回り、振り子の代わりに機械を動かし続ける。何十個もの時計が、めいめいの時刻を指したまま、同じ速さで時を刻んでいる。私はぜんまいは巻くが、腕には着けない。他人の物だからだ。手入れはする。使いはしない。それが、預かるということだ。

品物には質札の控えがある。番号と、流質期限の日付。蔵の中で、品物は名前を持たない。誰が持ってきたのかも、なぜ手放したのかも、私は知らない。私が覚えているのは、三〇四番の鞄はコバの磨きが深くて角が立っていること、三一二番のぜんまいの戻りが少し鈍いこと、それだけだ。事情は、帳簿の外にある。

蔵の扉は重い。厚い土壁の中に鉄の扉があって、閉めると店先の電話も通りの車も聞こえなくなる。中にいるのは、私と、番号で呼ばれる他人の品物だけだ。巻き上げ機の台が回る音がする。針を見て、桶の水位を見て、香の薄まりを嗅ぐ。ここにあるものは全部、誰かが取りに来るかもしれない。手前の棚は今日も二つ入れ替わった。記録帳は二行増えた。針は六〇を指している。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。