埋め戻しの、日
掘り終えた竪穴住居を、土で塞ぐということ

クマシロイツキ(30歳・遺跡発掘の作業員8年)

調査が終わった現場には、埋め戻しの日が来る。何ヶ月もかけて剥がしてきた地層を、今度は逆に、土で塞いでいく日だ。空には雲ひとつなく、現場には朝から静かな緊張が満ちていた。私たちはその日、掘る道具を一本も持たなかった。

見学に来た人に、よく言われる。「せっかく掘ったのに、もったいない」。気持ちはわかる。けれど、埋めることが一番の保存なのだと、私は説明する。露出したままの遺構は、風雨で崩れる。霜で土が浮き、雨で壁が落ち、夏の日差しで干からびて割れる。掘り出した竪穴住居の床は、空気に触れた瞬間から壊れはじめている。土をかけて元に戻すことは、破壊ではなく、保護なのだ。地面の下に戻してやれば、それはまた千年、そこで眠っていられる。

埋め戻しの前に、最後の写真を撮る。全景写真という。やぐらを組んで、高いところから現場を一枚に収める。住居跡の輪郭、柱穴の並び、貼り床の範囲。これが、この遺構が地上に姿を見せている、最後の一枚になる。シャッターを切る音が、やけに大きく聞こえた。撮り終えたカメラを下ろすとき、なんとも言えない気持ちになったのを、いまでも覚えている。

写真の次は、図面の最終チェックだ。実測図を広げて、現場と照らし合わせる。柱穴の径、床のレベル、覆土の境。一箇所でも測り忘れがあれば、もう取り返しがつかない。埋めたら二度と測れないからだ。私は図面を持って住居跡の中に降り、数字を一つずつ指で追った。合っている。間違いなく、合っている。何度も確かめずにはいられなかった。図面の上の線が、これから先のこの場所の、すべてになる。

確認が済むと、保護シートを敷く。黒い不織布のシートを、遺構の面にそっと広げていく。後の世にもし誰かが再び掘ったとき、ここまでが我々の掘った範囲だと、そのシートが教えてくれる。我々の手がどこで止まったかの、しるしだ。シートの端を、土で軽く押さえる。風にあおられないように、皺ができないように。最後に触れる作業だから、皆、いつもより手がていねいになる。

そして重機が入る。バックホウのバケットが、用意してあった土の山をすくい、シートの上へ静かに落としていく。何ヶ月も移植ごてで一枚ずつ剥がした地層が、機械の一すくいで、見る間に埋まっていく。私はその速さに、毎度立ち尽くしてしまう。剥がすのには時間がかかり、埋めるのは一瞬だ。土が落ちるたびに、住居跡の輪郭が、柱穴が、貼り床が、順に見えなくなっていった。

埋め戻しと並行して、現場事務所をたたむ。プレハブの中の図面棚を空にし、土色帳や実測の道具を箱に詰める。壁に貼ってあった全体図を剥がすと、画鋲の穴が四つ残った。机を運び出し、電気を止める。何ヶ月か通った場所が、数日で、ただの平らな土地に戻っていく。プレハブがトラックで運ばれていったあと、そこにはもう、私たちがいた痕跡は何もなかった。

図面と写真は、報告書になって納品される。製本された一冊の中に、あの住居跡は、線と数字と白黒の図版になって残る。現物の地面はもう触れないけれど、紙の上では、いつでも開ける。寂しさがないと言えば嘘になる。けれど、記録だけが残る、それでいいのだ。私たちの仕事は、消える前のものを書き写すことだったのだから。掘るな、下げろ。あの一言から、私はずっとそうしてきた。

半年後、同じ道を通った。平らだった土地には、マンションが建っていた。基礎の杭は、私たちが埋め戻した地層の、さらに下まで打たれているはずだ。エントランスの植え込みの下、ちょうどあのあたりに、千年前の竪穴住居が眠っている。住人は誰も知らない。それでいい。図面は、ちゃんと残っている。私は次の現場で、また移植ごてを寝かせる。手首だけで、紙一枚ずつ。

——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。