遺影の、前撮り(第二稿)
元気なうちに、と来る人の服と、付き添いの椅子の位置

クメアスカ(30歳・写真館スタッフ8年)

「元気なうちに撮っておきたいの」と言って来る方が、年に数人いる。多くはご高齢で、本人のほうが明るい。予約票を受け取ると、私は背景紙のロールを一本ぶん棚から引き出す。軋む音がする。グレーか青か、どちらを出すかは、その日の予約欄の余白に書いてある服の色で見当をつける。

背景紙は見本帳で選んでもらう。グレーは顔の影が出にくい。青は白髪が映える。青を指さした方が一人いて、白い髪がいちばんよく写るのは青だと、誰かに教わったのだと言った。教わった相手のことは訊かなかった。

服は、みなさん自分で持ってくる。これが、一番フォーマルな服ではない。礼服でも喪服でもなく、よく着る紺のカーディガン、退職のときに娘さんからもらったブラウス、旅行先で買った帯。ハンガーで持ち込み、撮影室の鏡の前で、いつものとおりに襟を直す。フォーマルでないものをフォーマルな一枚に選んでくる、その手つきだけを、私は見ている。

付き添いがいる撮影では、椅子を一脚、レンズの死角に置く。本人からは見えて、付き添いが前のめりになれない位置。前のめりになると、付き添いはつい「もっと笑って」と言ってしまう。それを言わせない距離に椅子を置く。八年やって決めた一脚ぶんの距離で、本人が明るいぶん、その椅子のほうが黙っている。

「笑っていいのかしら」と訊く方がいる。店主はいつも同じことを返す。「お好きな顔でどうぞ」。許可でも命令でもない。レフ板を顎の下に少し高めに返すと、影が消える。消えるのは影だけだ。迷いは消えない。迷ったままの顔も、店主はそのまま一枚撮る。

撮り直しを三回頼んだ方がいた。一回目は口元がかたく、二回目は作った笑顔で目が動いていなかった。遺影の撮り直しは、店主からは促さない。本人が「もう一度」と言うまで待ち、待つあいだは段取りの話をする。額の見本を黒・木目・細い金と並べ、データは五年お預かりすると伝える。三回目、その方は息を抜いて、誰にともなく「これでいいか」と呟いた。そのときの顔を、私は現像する前に覚えた。

納品は、四つ切りのプリントになった。額は木目を選ばれた。会計の控えに「五年」と書きながら、この期間のうちに焼き増しの電話が来た家のことを、いくつか思い出した。電話は、たいてい思っていたより早く来る。来ない五年もある。どちらなのかを、写真館は選べない。

木目の額に入った四つ切りを紙袋に入れて、その家の時間に渡す。次にその一枚が立てかけられる場所を、私は知らない。レフ板は、白い面をこちらに向けて立てかけてある。次に誰の顎の下の影を消すのか、それも、まだ予約票には書かれていない。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。