編集者(匿名)による第一稿への指摘。対象:英語教科書のフィクション #3(第一稿)/書き手:モチヅキカナデ
全体要旨
第三回は、第二回で批判された癖(オープニング便利さ、口語サンプルの作為、自社事例混入)が抑制されており、シリーズ運用が安定してきた。「電話で取り次ぐ」という社会的行為の縮小と、ビジネス英語としての生命力の併存は、本作独自の角度として価値がある。テキスト主体時代の代替コミュニケーションへの言及も、シリーズの主題に対して新しい視点を加えている。問題は、第三回でシリーズの構成が定型化していること:(1)「ペアワーク鏡像構造」の指摘がシリーズで毎回出ている、(2)結末の「教育設計の合理性」と「現代に足すもの」の二段構成が固定化、(3)「業界の議論として」の伝聞引用が増えている。
第一回・第二回でも見た「ペアワーク用の鏡像構造」を、四段に拡張したものになっている。
第一回("Nice to meet you, too")、第二回("Thank you very much / You're welcome")、第三回(四段の取り次ぎ)と、ペアワーク鏡像の指摘がシリーズで三回連続している。読者は、シリーズの「定番ポイント」として認識しはじめる。
第二稿では、ペアワーク鏡像の話を削るか、「これも前と同じく対称構造」と一文で済ませる。シリーズで毎回同じ指摘を繰り返さないことで、各回の独立性が保たれる。
section-label:テキスト主体の時代に
……電子メール、Slack、Teams、LINE、WhatsApp、Discord……短文化、省略("u" "ur" "lol" など)、句読点の意図的な省略・追加、絵文字の慣用……
テキスト主体コミュニケーションの解説段が、長く展開されている。Slack、Teams、Discord などのツール名と、"u" "ur" "lol" のような省略形と、絵文字の話まで、教科書英語の話題から離れて、現代英語コミュニケーション論の解説モードに入っている。
このセクションは、本シリーズの主題(教科書英語の不自然さ)から少し逸れる。第二稿では、ツール名の列挙と省略形の解説を削り、「テキスト主体のコミュニケーションが現代の主流になっている」一文にまとめる。
たとえば、Mary に LINE を送って、Mary が「いま会議中なのでまた後で」と返信し、こちらが「OK、夕方かけ直します」と返す、という三往復のテキストやりとり……
具体的な代替ダイアログ案を、本文中で提示している。これは教育工学者の専門性として書き手に書ける部分だが、第二回の批評で指摘された「教材改善案の本文混入」と同型。シリーズで毎回、結末手前に「私ならこう設計する」という改善案セクションが入っている。
第二稿では、改善案セクションを削るか、「テキスト主体の代替ダイアログを設計する余地はある」程度に圧縮する。具体のダイアログ例は、本シリーズの本文ではなく、別のフォーマット(書き手の業務メモ、教材ウェブ版そのもの)で示すべき。
業界の議論として、テキスト主体のコミュニケーションを教科書にどう組み込むか、という議論は、ここ数年のテーマのひとつだ。
「業界の議論として」「教育工学の現場で」「教科書編集の現場では」といった伝聞引用が、シリーズで増えている。これは書き手の専門性の根拠として書かれているが、伝聞の連発で、書き手の現場感が一段、間接的になる。
第二稿では、伝聞引用を削るか、「私が見てきた限り」「自分の経験としては」と書き手の足元から書き直す。間接的な伝聞よりも、直接の経験のほうが、説得力が出る。
三つを生かしながら、新しい場面を足していく作業に、たぶん教材設計の未来がある。
結末で、本作の三つの設計合理性(ビジネス英語の生命力、ペアワーク練習、文法網羅)と、新しい場面(テキスト主体)を、両立させる「未来」を語っている。シリーズ最終回ならふさわしいが、第三回でこのレベルの将来宣言を出すと、第四回・第五回で同じトーンを繰り返すことになる。
第二稿では、結末の「未来」を削り、「電話のダイアログは、いまも、ある場面では生きている」程度の地味な締めに変える。シリーズ後半の最終回に向けて、結末の重みを保留しておく。
固定電話の前提という時代の遅れは、ビジネス英語としての生命力と、ペアワーク練習の効率と、文法項目の網羅性の、三つの裏返しになっている。
三つの並列が、最終段で再演している。第二回の批評で「(a)(b)(c) を地の文に溶かす」と指摘した結果、本作では「◯◯と、◯◯と、◯◯の、三つ」と「と、と、の、三つ」の言い回しに変わったが、構造としては三並列のまま。書き手の「三つを並べる」癖は、シリーズで根強く残っている。
第二稿では、最終段の三並列を、二つか一つに減らす。「ビジネス英語としての生命力と、ペアワーク練習の効率の、両方」のように二つにするか、最も中心の理由(ビジネス英語)一つに絞る。
第三回は、シリーズ運用としては安定してきた一方、シリーズ全体での定型化(鏡像構造の毎回指摘、改善案の毎回提示、三並列の癖、「業界の議論」伝聞)が浮上している。シリーズ後半(第四回・第五回)に向けて、定型を意識的に崩す改稿が必要。
第二稿に向けて:
シリーズ第三回として、定型化を崩すパスにする。