ソノダマリ(マンションポエム国際比較調査員)
同じ価格帯の分譲住宅サイトを四つ開く。英語版の見出しは luxury residences、本文に premium amenities、下段に private lounge。日本語版は「高級マンション」とは書かず、「上質な私邸」「ホテルライクな内廊下」「静かなラウンジ」と置き換える。差は最初の一行に出る。どこで露骨さを消すかが、言語ごとに違う。
英語の luxury は住まいの看板に正面から立つ。価格、眺望、専有部の広さをまとめて照らせる便利な語だからだ。だが日本語で同じ位置に「豪邸」「贅沢」を置くと、とたんに広告が重くなる。そこで見出しは「上質」、設備欄は「天然石カウンター」「天井高約2.6m」「内廊下設計」と散らして処理する。大きな一語で押さず、細部で納得させる。
中国語でも同じ逃がし方がある。販売コピーでは 奢侈住宅 より 高端住宅、精品住区、改善型社区 のほうが座りがよい。奢侈 はブランド品や消費の話なら立つが、家に貼ると刺が立つ。アラビア語でも ترف は享楽が前に出すぎるので、物件名の周囲には فاخر や فخامة が集まる。ぜいたくを隠しているのではない。見栄に見える地点を外している。
欧州側はもう少し分業が細かい。仏語では luxe が見出しに立っても、本文では haut de gamme が効く。独語は Premium Wohnen と hochwertig が同居し、前者は売り文句、後者は床材や建具の説明に落ちる。ロシア語の люкс はホテル等級には強いが、住宅コピーではそのままでは硬い。似た語形が広く流通していても、使える場所は揃わない。
ここで日本語の上質は、luxury の薄い言い換えではない。販売現場で鍛えられた調整語である。「高級」は値段をむき出しにし、「豪華」は光りすぎ、「贅沢」は浪費の気配を残す。だから広告は「上質な素材」「上質な設え」「上質な時間」と受け皿を替え、階層の誇示を、手触りと整え方の話へ移す。これは日本語広告の癖ではなく、完成した技法だ。
二十言語を並べて強く残ったのは、似た単語の系図より、避けられた単語のほうだった。韓国語では 프리미엄 が商品名に強く、住まいでは 고급 が受け持つ場面が多い。ヒンディー語でも विलासिता は説明語として重く、広告は premium や आलीशान に寄る。分類表を作ると滑らかに見えるが、実際の広告はもっとせわしない。見出し、設備、共用部、立地説明で、語の役割が何度も入れ替わる。
日本の新築広告で最後まで残るのは、「高級住宅」ではなく「上質な住空間」だ。価格表の横には数字が並ぶのに、見出しはその数字を口にしない。そこに、この市場の遠慮ではなく作法が出る。派手さを売っているのに、派手さそのものとは言わない。そのねじれを一語で処理できるから、「上質」はしぶとい。