我的邻居,非富即贵
——中国大陸の不動産ポエムと、政府がポエムを禁じた日

ソノダマリ・ヨコヤマサトシ

#3で台湾の不動産ポエムを見た。「帝王」「皇室」「富豪」が飛び交う世界だった。では、同じ中国語を使う中国大陸はどうか。簡体字の世界を覗いてみると、台湾とは似て非なる——そして、ある意味もっと劇的な——風景が広がっていた。

なにしろ中国では、政府がマンションポエムを取り締まったのだ。

まずは原文を味わおう

中国の不動産サイトや広告文案集から採取した、実在の楼盤(物件)広告コピーを見てほしい。

「我的邻居,非富即贵!」

(私の隣人は、金持ちか貴人だけ!)

「繁华一展王侯笑,富贵不让帝王家。观山观水观天下!」

(繁華を一望すれば王侯の笑み、富貴は帝王の家にも劣らぬ。山を観、水を観、天下を観る!)

「城市名望地界,传世经典品质。一栋一尊邸,一宅一豪门。」

(都市の名望の地、伝世の経典的品質。一棟ごとに尊い邸宅、一宅ごとに豪門。)

「移动的树影,是你回家的时钟。」

(動く木の影が、あなたの帰宅の時計。)

最初の三つは、台湾の「帝王位」「皇室貴族」にも通じる権力・富の直球表現だ。しかし四つ目の「動く木の影が、あなたの帰宅の時計」——これは日本のマンションポエムに驚くほど近い、抒情的な表現だ。中国大陸のポエムは、権力系と抒情系が同居している。

簡体字と繁体字——同じ中国語、違うポエム

台湾は「帝王」、大陸は「府」

#3の台湾と今回の中国大陸を比較すると、同じ中国語圏でありながら、ポエムの文法に明確な差異がある。

台湾の高級物件名は「帝寶」「帝景」「皇家」——「帝」と「皇」の字が目立った。一方、中国大陸の楼盤名で最も頻出するのは「府」「城」だ。

澎湃新聞が大手デベロッパー3社(恒大・碧桂園・万科)の2000件以上の楼盤名を分析した結果によれば、「府」と「城」が各15.1%で同率トップ。20件に3件が「府」、3件が「城」

台湾:帝寶、帝景、皇家、御品 → 「帝」「皇」の字(皇帝のメタファー)
中国大陸:○○府、○○城、○○院 → 「府」「城」「院」の字(官僚・士大夫のメタファー)

「帝」と「府」の差は大きい。台湾の「帝」は皇帝——最高権力者そのものだ。しかし中国大陸の「府」は、古来高級官僚の邸宅を意味する。「帝王」ではなく「名士」。これは、中華人民共和国という社会主義体制の中で「皇帝」を名乗ることの微妙さを反映しているのかもしれない。

让建筑赞美生命——万科という抒情

中国にも「詩」がある

中国最大級のデベロッパーのひとつ、万科(Vanke)のブランドスローガンは——

「让建筑赞美生命。」

(建築に、生命を讃えさせよ。)

これは美しい。「建築」と「生命」を一行で結びつけ、建物に「讃える」という人間的行為を付与する——日本のマンションポエムの最良の部分に通じる抒情性がある。

万科の個別物件の広告も印象的だ。山景城の広告は「为久居城市的心灵造诗意栖息地」(都市に長く住む心のために、詩意ある棲み処を造る)。万科17英里のスローガンは「我能与这个世界保持的距离」(私がこの世界と保てる距離)。

他の大手デベロッパーも見てみよう。緑城(Greentown)は「为城市创造美丽」(都市に美を創る)。龍湖(Longfor)は「善待你一生」(あなたの一生を大切にする)。

こうした企業スローガンの抒情性は、日本のデベロッパーにはあまり見られない。野村不動産は「プラウド」、三井不動産は「パークコート」——ブランド名で語り、企業としてのポエムは控えめだ。中国の大手デベロッパーは、企業自体がポエムを纏う

大洋怪重——政府がポエムを禁じた日

2019年、六部委の通達

ここからが、中国大陸の不動産ポエムの最も独特な点だ。

2019年、中国政府の六部委(民政部ほか)は共同で「不规范地名清理整治」(不規範地名の整理整治*)通達を発出した。全国15以上の都市で、楼盤の名称が一斉に取り締まられた。対象は「大洋怪重」の四類型——

* 「整治」は中国語で「取り締まり・是正」を意味する行政用語。日本語の「整備」と「自治」を合わせたようなニュアンスで、問題を正して秩序を回復させること。

さらに明確に禁止されたのは、「皇帝、皇庭、御府、帝都、王府、相府、官邸、公馆」——古代の帝王の称号や官職名を物件に使うことだ。

これは衝撃的だ。台湾では「帝寶」が全土50カ所にコピーされたのに対し、中国大陸では「帝」「皇」を物件名に使うこと自体が政府によって禁止された。同じ漢字文化圏の海峡を挟んだ両岸で、不動産ポエムに対する態度がこれほど違う。

マンハッタンが「マンハ屯」に——改名の実例

671件の楼盤が対象

澎湃新聞の調査によれば、15都市で合計671件の楼盤が整治対象になった。具体的な改名例を見てみよう。

「マンハッタン」が「マンハ屯」になる。「ヨーロッパ城」が「矮凳橋」になる。ポエムが国家権力によって剥がされ、その下から素朴な地名が現れる。これは、どの国にもない中国大陸固有の現象だ。

なぜ中国だけがポエムを禁じられたのか

権力とポエムの関係

日本、台湾、韓国、アメリカ——このシリーズで見てきたどの国・地域でも、政府が楼盤のポエム的命名を一斉に禁止するということは起きていない。なぜ中国大陸でだけそれが可能なのか。

理由は少なくとも二つある。

第一に、地名管理が行政権限として確立されていること。中国では楼盤には行政が定める「備案名」(登録名)と、デベロッパーが広告で使う「推広名」(宣伝名)の二種類があり、両者が乖離している場合が多い。政府は備案名の権限を持つから、推広名を規制できる。

第二に、「封建的」という政治的レッテルの力。「帝」「皇」「王府」が禁止される根拠は「封建色彩が濃厚」という理由だ。社会主義国家において「封建的」は強力な否定語であり、デベロッパーはこの論理に対抗しにくい。

#9の三原理に照らせば、中国の整治は「蒸発の原理」の強制適用と言える。通常、蒸発は言語の翻訳過程で自然に起きる。しかし中国では、国家が「この意味は蒸発させろ」と命令する。「帝王」のイメージを楼盤名から行政的に蒸発させるのだ。

洋名から「府」「院」へ——ポエムの回帰

名前が時代を映す

「大洋怪重」整治の結果、中国の楼盤名はどう変化したのか。界面新聞の分析によれば、命名のトレンドは明確に変わった。

整治前(2010年代前半):マンハッタン、ウィーン、シャンゼリゼ → 洋名全盛
整治後(2020年代):○○府、○○院、○○雅苑 → 中国伝統の語彙が回帰

これは#10で見た日本の「2007年転換」——「アーバン」から「雅」へ——と驚くほど並行する現象だ。日本ではリーマンショックという経済的衝撃が引き金だったが、中国では政府の行政命令が引き金になった。原因は違うが、結果は同じ——洋風の語彙が退場し、伝統的な漢字が帰ってくる

ただし、この「回帰」はポエムの消滅ではない。「帝」が禁止されても「府」が生き残り、「マンハッタン」が消えても「翰林苑」「状元府邸」が台頭する。ポエムは規制されても死なない。形を変えて蘇る。ポエムは水のようなもので、一つの流路を堰き止めれば、別の流路を見つける

まとめ——海峡を挟んだ二つのポエム
台湾(#3) 中国大陸(本回)
権力の語彙 帝寶、帝景、皇家 ○○府、○○院(帝・皇は禁止)
洋風の名前 英語混入が自由 「大洋怪重」整治で規制
政府の介入 ほぼなし(自由市場) 六部委の整治通達(2019年)
企業スローガン 物件単位のコピー中心 企業自体がポエムを纏う(万科「让建筑赞美生命」)
抒情性 低い(権力・家族が中心) 権力系と抒情系が同居

同じ中国語を使いながら、海峡を挟んだ両岸で不動産ポエムの風景はこれほど違う。台湾では「帝」が自由に増殖し、大陸では「帝」が国家によって刈り取られる。しかしどちらの社会でも、ポエムは死なない。規制の穴を見つけ、新しい語彙で復活する。

不動産ポエムは住宅を売る言葉であると同時に、その社会の政治体制を映す鏡でもある。

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参考文献

簡体字中国語記事

日本語

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。簡体字中国語の原文はAIが直接読解・翻訳したものです。