ミブカレン(24歳・100円ショップの品出し6年)
10月31日。閉店の鍵がかかった瞬間から、私たちの夜が始まる。窓の外には冷たい秋の風が吹いていて、消えかけの売り場には蛍光灯の光だけが静かに満ちていた。昼間まで子どもたちが手に取っていたオレンジと黒の什器を、今夜じゅうに、ぜんぶ崩さなければならない。明日の朝には、ここはクリスマスになっている。
まず撤収だ。売れ残ったハロウィングッズを、空いた段ボールに戻していく。カボチャの形をしたバケツ、蜘蛛の巣のフィルム、紫のリボン、骸骨のガーランド。一年に一度しか日の目を見ないものたちが、来年まで眠る箱に帰る。撤収には、行き先で三つに分かれるという決まりがある。値下げワゴンへ回すもの、本部へ返品するもの、そして廃棄に仕分けるもの。私はカボチャのバケツを手に取って、少し迷ってから、値下げワゴンの箱に入れた。
値下げシールは、貼ると決めたら速い。100円の商品に、半額の赤いシールを重ねて貼る。昨日まで季節の主役だったものが、一枚のシールで在庫処分品になる。私はシールを貼りながら、この子たちは昨日まではちゃんとハロウィンだったのにな、と思った。季節が変わるというのは、こういうことなのかもしれない。
撤収が半分終わるころ、倉庫からクリスマスの箱が出てくる。この箱は、10月のはじめにはもう届いていた。届いた日から、倉庫の隅でずっと出番を待っていた箱だ。フタの合わせ目に、カッターの刃の先を二ミリだけあずけて、手前から奥へ一息で引く。深いと中身まで切る。その二ミリは、6年で手が覚えた。箱を開けると、赤と緑と金が、ぎっしり詰まって待っている。
同じ棚に、今度はクリスマスを積んでいく。サンタの靴下、金のモール、赤いオーナメント、雪の結晶のシール。昨日まで蜘蛛の巣だった場所に、聖夜が並ぶ。世界が一晩で衣替えするのを、私たちは裏から手で押している。客は何ごともなかったように、明日この新しい売り場の前に立つのだ。
開店前、私は最終チェックをする。値札の向き、フェイスの揃い、シールの折れ。すべてを指でなぞって確認する。シャッターが上がる。最初の客が入ってくる。「えっ、もうクリスマス?」と笑う人がいる。その隣で、「待ってました」と、迷わずオーナメントをカゴに入れる人がいる。同じ売り場が、人によってこんなにも違う表情で迎えられる。
季節の前倒しは、年々速くなっている気がする。ハロウィンがまだ終わってもいないうちから、「クリスマスのって、もう出てます?」と聞かれる。私たちの売り場は、世間よりいつも一か月早い。世間がカボチャを飾っているとき、私たちはもうサンタの箱を開けている。そして2月になれば、売り場は渋滞する。節分の恵方巻きグッズと、バレンタインのラッピングが、同じ通路で肩を並べる。鬼の面とハートのシールが、隣り合って客を待っている。
6年、私はこの夜を何度もくぐってきた。撤収の段ボールを畳み、倉庫の箱を開け、値下げのシールを貼り、最終チェックの指を走らせてきた。そうして思うのは、結局、売り場の季節は世間の季節より一か月早いのだ、ということだ。私たちは未来を先に並べ、過去を先に畳む。季節の番人は、いつも少しだけ、世間より先の時間を生きている。今夜もまた、私は一夜で季節を入れ替える。
——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。