居抜きの、線(第二稿)
全部は壊さない現場で、残すものに養生を貼る

ミナヅキレン(33歳・内装解体11年)

店舗やオフィスを箱に戻す仕事をしている。けれど居抜きの現場では、箱には戻さない。前の店の設備の一部を、次の借り手がそのまま使う。半分だけを解体して、半分は次の人に渡す。全部壊すより、図面のどこに線が引かれているかを、ずっと細かく確かめる仕事だった。

査定の立ち会いから始まる。次の店の人と、不動産屋と、私。三人で厨房を回る。次の人が換気扇を指して、残す。製氷機を指して、引く。カウンターを指して、残す、その奥の間仕切りを指して、壊す。指が動くたびに、私は手元の紙に「残」と「解」を書き分けていく。一つの厨房を、二人で二色に塗り分けていった。

製氷機の前で、判定をする。電源を入れて、五分待つ。コンプレッサーの唸りが立ち上がらない。給水弁を開け直して、もう五分。庫内に手を入れても、まだぬるい。死んでいる。換気扇はスイッチ一つで羽根が回りはじめたから、生きている。紙には品名、型番、製造年を写し、生きているものに「現状渡し・保証なし」と添える。動くと書いた設備が引き渡しの翌週に止まれば、止めたのは私だということになる。だから、待つ分は待つ。

残すと決まったものには、先に養生を貼る。壊す壁のすぐ隣に、残すカウンターがある。天板に毛布をかけ、角を合板で囲い、養生テープで巻く。隣でバールを振るときは、肘一つぶん壁から距離を取って、跳ね返りが天板へ届かない角度で打つ。一メートルの中に、壊す側と守る側がある。守る側に一筋の傷をつければ、解体の請求より、その天板の弁償のほうが高い。

どこまで壊すかは、図面の一本の線で決まっている。ここまでが解体範囲、ここからは残置と、赤い線が走っている。線の手前では、私は遠慮なくバールを入れる。線の向こうでは、指の腹で養生を確かめながら歩く。同じ私の手が、線をまたぐたびに、壊す手と守る手に切り替わる。線を見失えば、残すべき壁を一枚、落としてしまう。

製氷機の隣の生ビールサーバーは、店のものではなかった。酒屋がリースで置いたものだ。解体に入る前に、私は酒屋へ電話を入れる。「サーバー、いつ引き上げに来られますか」。翌朝、酒屋が来て、自分のものだけを台車に載せて出ていく。残・解の二色の上に、もう一色、他人のものという色が重なっている。線を引く前に、まず誰の持ち物かを電話で確かめる。

解体が半分済んだ昼前、次の店の内装屋が下見に来た。運び出す材とすれ違って、彼らが採寸の道具を提げて入ってくる。「カウンター、残しでいいんですよね」。私は養生をめくって、傷のない天板を見せる。「換気扇は回ります。製氷機は抜きました、リストに型番。サーバーは酒屋が引き上げ済み」。一つの厨房を、こちら側からあちら側へ、立ったまま渡していった。スケルトンに戻す現場では、次の内装屋とすれ違うことはない。

夕方、線の手前だけが片づいて、向こうは手つかずのまま残った。養生をかけたカウンターも、回る換気扇も、私の引いた紙に「残」と書いたものは、一つも欠けずにそこにある。死んだ製氷機を積んだトラックが、先に出ていく。私は図面をたたんで、赤い線の向こう側に、鍵を置いて帰った。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。