輝け☆青春で、何も困らなかったクラス
——文化祭、ミウラの六日

※本エッセイはすべて創作です。登場人物・学校・出来事はすべて架空のものであり、実在のいかなる個人・組織とも関係ありません。

ミウラユウキ

2年1組。男子バスケ部、副部長。出し物はカフェ。当日は呼び込みと会計。

1年3組のたこ焼き屋の話は、本当はこっちの話じゃない。あいつらのクラスの話だ。でも、外側から見てたら、自分のクラスのことが見えてきたから書いておく。

5日前——5分で決まったスローガン

うちのクラスのHR。スローガンを決める時間。

担任が「じゃあ、決めようか」って言って、誰かが「『輝け☆青春』でいいんじゃね」って言って、誰も反対しなくて、5分で決まった。

俺も何も言わなかった。「輝け☆青春」、悪くないと思った。っていうか、考えてなかった。スローガンって、決めればいいだけのもんだろ。中身がどうとか、誰が気にすんの。

クラスの女子が「効率いいねー」って笑った。委員長が「うちのクラス、まとまってるね」って言った。

うん。まとまってる。

俺もそう思った。そのとき。

3日前——廊下で「揉めてる」

放課後、部活の前にトイレ行こうとして、1階の渡り廊下を通った。1年3組の前。

ドアが開いてた。中で言い合いっぽい声がしてた。

覗いた。

1年3組、まだHRやってた。スローガン会議。45分くらい揉めてるらしい。あのタケウチとかいうやつが前に立って、なんか「盛らない」とか言ってた。

俺は「おーい何揉めてんの」って声をかけた。

クラス全員がこっち向いた。空気がちょっと固かった。「先輩、今いいとこなんで」みたいな目線が3つくらい飛んできた。

俺は「ごめんごめん」って手を上げて、ドアを閉めた。

歩きながら思った。「うちのクラスは5分で決まった。あいつらは45分揉めてる。うちのほうが優秀だな

そう思って、部活に向かった。

2日前——気になる

そのあと、なんか頭から離れなかった。

1年生のクラスが、スローガン1個に45分。何をそんなに揉めるんだよ。「輝け☆青春」でいいだろ。「最高の思い出を」でもいいし、「一致団結」でもいい。誰が困るんだよ、その3つで。

でも、あいつらは困ってた。マジな顔で。タケウチって人、前に立って汗かいてた。

あいつ何と戦ってんの。

夜、寝る前にスマホ眺めてて、ふと思った。俺、あの場で「輝け☆青春」を出されたら、何も言わずに賛成してたな。

5分で決めたのは、効率がいいんじゃなくて、誰も「困る」を引き受けなかったからかもしれない。

そう思いついて、ちょっと寝つきが悪くなった。それで終わりにした。寝た。

前日——うちの貼り紙

準備の日。うちのクラスの黒板の上に、「輝け☆青春」が貼ってあった。

パソコンで作ったらしい。明朝体。フォントがでかい。プリンターで印刷して、A3用紙を4枚つなげて貼ってある。きれい。プロっぽい。

でも、誰の手も入ってない感じがした。

明朝体の「輝け☆青春」は、検索すれば1秒で出てくる。デザインも、テンプレートをダウンロードしただけだろう。

1年3組のスローガンは、模造紙にマジックで書いてあった——とあとで聞いた。当日見にいくつもりだから、まだ見てない。でも、たぶん字が曲がってて、誰かの手の形が残ってる。

うちの貼り紙には、誰の手も残ってない。

「輝け☆青春」で、何も困らなかったクラス。
困らなかったから、誰の手も残らなかった。

当日——カフェの呼び込み

文化祭当日。うちのクラスはカフェ。スムーズに回った。シフトも、料理の出し方も、レジも、全部マニュアル通り。誰も困らなかった。

俺は呼び込み担当。「2年1組カフェやってまーす、コーヒー200円ですー」って大声で言うやつ。

3回くらい休憩で席を外した。そのたびに、足が1年3組のほうに向いた。

1階。たこ焼き屋。煙がすごい。「いい匂いー」って通行人が言ってる。

入り口の横に、模造紙のスローガンが貼ってあった。マジックで書いてある。字がやっぱり曲がってる。

読んだ。

……読んだけど、ここには書かない。読んでも、たぶん意味がわかんなかった。あれは1年3組の中の人間にしかわかんないやつだ。タケウチが言ってた「うちのクラスの言葉」って、こういうことか。

外の人間が読んでも、意味がわからない。でも、字を見たら、誰かの手で書かれたことだけはわかる。

うちのクラスの「輝け☆青春」とは、そこが違った。

当日午後——たこ焼き、買った

3回目に行ったとき、たこ焼きを買った。100円。

レジにタケウチがいた。前に廊下から覗いたときの、汗かいてた人。

俺と目が合った。タケウチは「あ」って言った。

俺は「えっと、たこ焼きください」って言った。

タケウチは100円を受け取って「ありがとうございます」って言った。

それで終わり。

あいつ、俺のこと覚えてないかもしれない。45分の議論を覗いた先輩、なんて、そんな細かいこと覚えてないかもしれない。

でも俺は覚えてた。「おーい何揉めてんの」って言ったときの、3組の凍った空気を。

たこ焼きはおいしかった。煙の中で焼いた、形がちょっとガタガタのやつ。

翌日——部活で気合じゃなくて

文化祭の翌日。土曜。バスケ部の練習。

1年生のキョウタが、シュートを外しまくってた。10本中2本。

俺はいつもなら「気合いだ気合い」って言う。それで終わり。先輩らしいこと言って、自分の練習に戻る。

でもこの日、口が止まった。

「気合い」って、「輝け☆青春」と同じ構造をしてる。テンションは高い、でも中身がない、でも誰も困らない。

キョウタが何に困ってるかは、気合いじゃ解決しない。

俺はキョウタを呼んで、「右足、もうちょい外に開け」って言った。具体的に。動きを真似して見せた。

キョウタは「あ、はい」って言って、右足を直した。次のシュートが入った。

キョウタは「先輩、すげえ」って言った。

俺は「お前の右足が直っただけだろ」って返した。

でも、心の中では、「これか」と思った。

2日後——「揉めるクラス」の意味

うちのクラスは「まとまってる」と言われ続けてきた。文化祭でも、体育祭でも、合唱コンでも、決めるのが速い。揉めない。担任にも褒められた。

でも、まとまってるって、考えてないってことだったかもしれない。

1年3組は45分揉めた。スローガン1個に。揉めるってことは、考えてるってことだ。考えてるってことは、誰かが「困る」を引き受けてるってことだ。

うちのクラスで、誰も困らなかった。それは優秀じゃなかった。誰も自分の番を引き受けなかっただけだ。

5分で決まったうちのクラスのスローガン。45分かかった3組のスローガン。後夜祭の翌日、両方とも壁から剥がされた。

うちのスローガンは、剥がしても誰も惜しくなかった。

3組のスローガンは、剥がすときに誰かが惜しんだはずだ。タケウチか、サカモトか、カドか、ヤマモトか、誰かが。

数日後——後輩に

3日後の部活。キョウタがまた来た。

キョウタが「先輩、こないだの右足のやつ、ありがとうございました」って頭を下げた。

俺は「お前、文化祭、何のクラスだったっけ」って聞いた。

キョウタは「3組です。たこ焼き屋です」って言った。

……。

マジか。同じクラスかよ。

俺は「あの壁のスローガン、覚えてる?」って聞いた。

キョウタは少し考えて、「ええっと、なんかありましたね」って言った。覚えてない。

俺は笑った。当事者でも、覚えてない人は覚えてない。45分かけたタケウチは絶対覚えてる。でもキョウタは覚えてない。

それでいい。覚えてる人がいて、忘れる人がいて、外から覗いた俺がいて、それで45分は完成する。

うちのクラスは「輝け☆青春」で何も困らなかった。
3組は45分困った。
困った人だけが、自分の手の形を、その日の壁に残せる。
俺は、明日から困りたい。

← タケウチの文化祭
← 同級生・ヤマモトの五日
← 生成エッセイの現在地

このページの記事はAI(Claude)を用いて作成・編集されています。ミウラユウキは架空の人物です。