モリシタユイ(28歳・パン屋製造担当6年)
十一月の半ば、レジ横の予約表が三枚目に入る。罫線の縦長の用紙で、左から日付、名前、品名、数量、受け取りの時間。シュトーレンの欄が先に埋まる。朝四時に店に入って、いちばんに数えるのはその枚数だ。何本焼くかは、もう十一月のうちに決まっている。
シュトーレンは寝かせる菓子パンだ。焼いて粉糖を二度がけして、奥の棚で二週間寝かせる。バターと洋酒が生地に回るまでの二週間。だから十二月二十四日に渡す分は、十日の朝にはもう焼き終えて、棚で静かに乾いていく。一本五百グラムで成形する。受け取りまでに四十グラムほど水が抜けて、軽くなる。私は焼いた日の重さと、渡す日の重さを、両方ノートに書く。
当日売りの商品は、向きが反対だ。ブッシュドノエルも、リース型の菓子パンも、二十四日に焼いて二十四日に売り切る。寝かせる時間はない。同じ十二月の棚に、二週間前に焼いて待っているものと、今朝焼いて夕方には消えるものが、並んで載っている。奥のシュトーレンの番号札は「12/10焼成」、手前のブッシュは値引きシールの当日の日付。同じ棚で、時間が逆を向いている。
予約表をめくると、毎年同じ名前が同じ週に出る。受け取りの欄の筆跡で分かる。先週、三枚目を繰っていて、ある名前の数量が「2」から「1」になっているのを見た。去年の用紙はバインダーに綴じてある。去年の同じ行は「2」、今年は「1」、筆跡は同じ。私はその「1」を、明日の焼成数のノートに足した。それだけだ。
ラッピングを手伝う日は、リボンより先に賞味期限シールを打つ。シュトーレンは「製造日から一か月」。寝かせた二週間はもう過ぎているから、残りは半月だ。粉糖は吸い込むと喉の奥でいがらっぽくなる。袋の口を折って、二度がけの粉糖がこぼれないように底を上にして渡す。指で日付の打刻を確かめる。手はその日付の数字を、しばらく覚えている。
二十四日の夕方、店頭に行列ができる。当日の商品が一時間で空く。けれど予約のシュトーレンは、もう何日も前に焼き終えて、奥で出番を待っているだけだ。私は行列を見ながら、奥の棚の「12/10焼成」を数える。残り四本。受け取り時間の欄に、まだ赤い線が引かれていない四本。
二十六日の朝、店に入る。予約表のバインダーは外され、ホワイトボードには「食パン十八/クロワッサン六十」と、いつもの数字が戻っている。奥の棚に、シュトーレンはもう一本もない。粉糖の匂いも、二日もすれば抜ける。私は食パンの生地を一次発酵にかける。去年「2」だった行が今年「1」になったことは、ノートの隅に焼成数として残っている。今年の暮れの分は、今年の暮れまで。