ニシオカハルカ(29歳・保育士7年)
子どもの背中を叩いて寝かしつけることを、トントンと呼ぶ。同じトントンでも、効くリズムは子どもごとに違う。今日は十二人いて、十二通りだった。私はそれを手で覚えている。
午睡の準備は給食のあとに始まる。カーテンを引く。真っ暗にはしない。顔色が見えないと、五分おきのチェックができない。明るさは情緒ではなく、安全の変数だ。オルゴールのCDをかける。十二月から同じ一枚で、二曲目の「ブラームスの子守歌」の途中で、だいたい半分が落ちる。
コットを並べる順番は決まっている。窓側から、眠りの浅い子。壁側に、すぐ落ちる子。となり合わせにすると起こし合う二人がいて、その二人だけは毎日、対角線に離して敷く。
Sちゃんは速いトントンで眠る。一秒に二回くらい、軽く。ゆっくり叩くと目を開ける。Tくんは逆で、遅く、深く。心臓の音より少し遅いくらいでないと、肩に力が入ったままになる。Mちゃんはトントンそのものが邪魔で、背中にただ手を置く。叩くと「やめて」と小さく言う。Mちゃんの前では、手のひらを動かさないことに全部を使う。
寝かしつけは腰でやる仕事だ。床に膝をついて、上体を低くする。一年目に腰を痛めてから、膝の下に畳んだバスタオルを敷くようになった。Sちゃんを速いトントンで寝かせている途中で、チェックの時刻が来る。手を止め、立ち上がり、升目に印を書く。戻ると、Sちゃんはまた目を開けている。もう一度、最初から速く叩く。
午睡チェック表は、五分ごとの升目が並んでいる。その時刻ごとに、一人ずつ胸の上下を見て、顔の向きを確かめ、升目にレ点を書く。うつぶせになっていたら、そっと仰向けに戻す。眠っているあいだの呼吸を、五分おきに数える。寝かしつけとは別の仕事で、トントンの手を止めてでもやる。
Kくんは週に二日は寝ない。無理に寝かせないのが園の方針だ。けれど寝ないと午後がもたない。三時を過ぎると目をこすって、些細なことで泣く。Kくんのコットのそばに座る。寝なくていいよ、と言いながら、背中には手を置いている。眠ってほしい、とどこかで思っている。
起こし方にも個人差がある。カーテンを少しずつ開けて起こす子。名前を呼ばないと起きない子。背中をさすると不機嫌になる子。起きる順番は、ほとんど毎日同じだ。いちばんに目を開けるのはAちゃんで、最後まで眠っているのはTくん。起きた子から、まだ眠っている子を起こさないように、抜き足で別の部屋へ移す。Mちゃんが目を開けるとき、私は背中の手を、叩かないまま離す。