ソノダマリ
前回は距離の暗号。今回は面積の暗号。「専有面積70㎡」と書かれた部屋が、なぜ思ったより狭く感じるのか。「3LDK」と「2LDK+S」は何が違うのか。数字の世界にも暗号は潜んでいる。
物件情報を見ていて、「2LDK+S」という表記に出会ったことがあるだろう。この「S」はサービスルームの略だ。
サービスルーム。名前だけ聞くと、ホテルのルームサービスのような響きがある。しかし実態は——建築基準法の採光基準を満たさない部屋だ。
建築基準法では、「居室」として認められるには、採光のための窓の面積が床面積の7分の1以上必要とされる。この基準を満たさない部屋は「居室」と表示できない。だから「サービスルーム」「納戸」「DEN」「フリースペース」と呼ばれる。
3LDK:リビング+ダイニング+キッチン+居室3つ(すべて採光基準を満たす)
2LDK+S:リビング+ダイニング+キッチン+居室2つ+サービスルーム1つ(1つは採光不足)
物理的には同じ3部屋があるのに、表記上は「2LDK+S」になる。そしてここが暗号のポイント——「2LDK+S」は「3LDK」より安い。採光不足の1室があるだけで、物件全体の価格が下がる。これは買う側にとっては得に見えるが、「なぜ安いのか」を知らなければ、暗い部屋に気づかないまま契約することになる。
#1の暗号の型で言えば、これは型1(ネガティブの変装)だ。「採光基準を満たさない部屋」を「サービスルーム」に変装させる。「サービス」という言葉のポジティブな響きが、実態を覆い隠す。
マンションの広告で「専有面積70㎡」と書かれていたら、住める面積は70㎡——と思うだろう。しかし実はバルコニーは専有面積に含まれない。
バルコニーは法律上「共用部分」だ。あなたが独占的に使用できるが、所有しているわけではない。だから「専有面積70㎡、他にバルコニー10㎡」と表記される。
ここに暗号がある。広告のパンフレットには間取り図が載っていて、バルコニーは部屋の一部のように描かれる。写真でもバルコニーにテーブルと椅子が置かれ、リビングの延長として演出される。視覚的にはバルコニーが面積に含まれているように感じるが、数字上は含まれていない。
同じ「70㎡」でも、バルコニー10㎡の物件とバルコニー3㎡の物件では体感の広さがまるで違う。しかし「専有面積」の数字は同じ70㎡だ。
マンションの面積には、2つの測り方がある。
不動産広告で使われるのは壁芯面積だ。壁の厚みの半分が「面積」に入っている。一方、登記簿に記載されるのは内法面積。両者の差は一般に5〜8%。
広告の「専有面積70㎡」(壁芯)
→ 登記簿の面積は約64.4〜66.5㎡(内法)
→ 差は3.5〜5.6㎡。畳2〜3枚分の「見えない壁」
畳2〜3枚分の面積が、壁の中に消えている。広告の数字が嘘だとは言わない——壁芯で測るのは業界のルールだ。しかし消費者が思う「70㎡」と広告の「70㎡」は、最初から違うものを指している。
日本独自の問題がもう一つ。畳の大きさが地域で違う。
京間の6畳は10.94㎡。団地間の6畳は8.67㎡。同じ「6畳」で2.27㎡(畳1.5枚分)の差がある。
不動産広告で「洋室6畳」と書かれたとき、それがどの基準の6畳なのかは——多くの場合、明記されていない。
| 国 | 面積の暗号 |
|---|---|
| 日本 | 壁芯面積(壁の厚みを含む)。バルコニー別。S=採光不足部屋 |
| 中国 | 建筑面积(共用部を含む)vs 套内面积(専有のみ)。共用部込みで3〜4割膨らむ |
| 台湾 | 「坪」表記(1坪≈3.3㎡)。MP #3の「3000坪」も坪マジック |
| アメリカ | sq ft表記。ガレージを面積に含めるかどうかは州による |
| イギリス | 歴史的に面積表記の義務なし。「spacious」と書いて面積は伏せる |
中国の「建筑面积」は特に強烈だ。共用廊下、エレベーターホール、管理人室まで面積に含まれる。100㎡の建筑面积のうち、実際に住める套内面积は60〜70㎡ということがある。同じ「100㎡」でも、中国と日本では実質面積が3割違う。
イギリスは逆に面白い。歴史的に面積の表示義務がなかったため、広告に "spacious"(広々とした)と書いて具体的な数字を伏せるのが一般的だった。#1の暗号の型3(規制回避の言い換え)ではなく、規制がないから数字を出さない——規制の不在が暗号を生む珍しいケース。
距離の暗号(#2)では「80m=1分」というルールの盲点を見た。面積の暗号でも同じ構造がある——数字は客観的に見えるが、測り方の定義に暗号が潜んでいる。
マンションポエムの「上質がそびえる」は明らかにポエムだ。誰もそれを数値だとは思わない。しかし「専有面積70㎡」は数値に見える。数値は客観的だと思い込みがちだ。数字の暗号が最も危険なのは、数字が「嘘をつかない」と信じられているからだ。