辛口レビュー
——「リスク許容度は人それぞれ」(第一稿)について

全体要旨:核となる観察「『人それぞれ』は責任の所在を客の性格に転送する一文であり、性格は数式に乗らないので助言の正誤も問われなくなる」は鋭く、シリーズ#3 の独自性を担っている。動詞の話だった#1とは別角度で、業者側の自己言及も入っている。ただし、論証の中盤で抽象語が前に出てくる箇所、八番カードの「数値の体裁」など説明調になる箇所、結末の整い方に、観察の刃を鈍らせる要素がある。

1. 冒頭「四回目の『人それぞれ』」のオチ

私はにっこり首を横に振り、「正解はありません。リスク許容度は人それぞれですから」と答えた。これで一日に四回目の「人それぞれ」だった。

「四回目」という数字で自己反省を匂わせるのは便利だが、便利すぎる。読者に「あ、この人は自覚的なんだな」と早めに伝えてしまい、後段の自己言及カードの効きを半分削っている。冒頭は青年がペンを止めている描写と、こちらが「人それぞれです」と返すところまでで止め、自己反省は中盤以降に取っておくほうが鋭い。

2. 「適合性原則」の余計な権威

「あなたに合わせて選んだ」という形が出来上がる。金融商品取引法の適合性原則も、こうした聴取の上に成り立っている。

法律名を出すと、エッセイの音域が一段上がる。窓口に立つ家計アドバイザーが「金融商品取引法の適合性原則」と言うとき、文章は急に解説書の声になる。観察文としての温度が落ちる。法律は知っていることが伝わればいい。「お役所の側にも『顧客に合わせる』という建前があり、その建前を支える聴取として用紙が配られる」程度に薄めれば足りる。

3. 「数値の体裁」の言い回しが説明調

乗らないものを5択10問に押し込むと、数値の体裁だけが残る。体裁が残ると、根拠を問われたときに「アンケート結果に基づいています」と答えられる。

「体裁」「根拠」「答えられる」と、抽象語が短く連続する。エッセイというより、エッセイの解説のような語感になっている。観察の手触りを残すなら、用紙の物としてのディテール(マークシート風なのか、自由記述があるのか、点数の合計欄が左下に小さく印刷されている、など)を一つ入れて、そこから「この一枚で性格を測ったことになっている」と書くほうが残る。

4. 静的/動的の対比が抽象語のまま

動く事実を、動かない名詞で固定する。固定した瞬間に、相談の言葉から、市場の上下動が抜ける。

「動く事実」「動かない名詞」のレトリックは、書き手が気持ちよくなる構文でもある。読者は気持ちよさに気付く。動的/静的という骨組みを伏せて、具体の事実だけを並べる方が、骨組みが透けて見える。たとえば「3月の朝に上書きされる」「半年前と今で答えが変わる」を並置するだけで、十分に動と静の差は伝わる。「動く事実を…で固定する」は削ってもよい。

5. リーマン/コロナのくだりが大きすぎる

2020年3月、リーマンの2008年秋、相場が縦に落ちた朝の記憶を、客と一緒に思い出すことがある。

歴史的事件を二つ並べると、語り手の年代の重みが急に出てきて、青年の話だった文章が突然「業界二十年の私が」の音域に切り替わる。一回の下落、それも具体的な一人の客の挙動を一例で出すほうが、観察の解像度が上がる。「2020年3月」だけにして、「あの朝、積極型と出ていた人から最初に電話がきた」と一人分のディテールに落とす。

6. 「言い換えてみる」の長文が説明的

「リスク許容度は人それぞれ」を、責任の所在を戻して書き直すと、「あなたの性格は私には測れない、にもかかわらず私はその測定に基づいて商品を売っている」になる。

言い換えのカードは#1と同じ構造で、シリーズの定型としては悪くない。ただ、ここで提示される「正直版」が長い解説文になっており、慣用句との対比の鋭さが落ちている。もっと短い対句で並べたい。例:「人それぞれ」→「私には測れません」。長い説明を続けるなら、対句のあとに置くべきで、対句そのものを長くしない。

7. 結末の判定書のオチ

私が彼に渡したのは、商品ではなく、性格の判定書だ。判定の根拠を尋ねられたら、私は今日も「アンケートに基づいています」と答える。

「商品ではなく、性格の判定書だ」は、書き手が自分で核を再提示している格好で、観察を客の前に並べ直す動きが入っている。読者はもう核を理解しているので、ここで再提示すると説教気味の音が混ざる。最終カードは、青年が帰った後の机の上の用紙、あるいは次の客の用紙が出てくる動作で止め、判定の言葉は読者に渡したほうが残る。

8. 「中立型」の繰り返し

集計すると中立型に出た。私は「中立型ですね」と告げ、いくつかのバランス型ファンドを並べて見せた。

「中立型」が二回連続で出てくる。最初の集計の場面で「中立型」と書いたら、二度目の発話は「同じ中立型を本人に告げた」程度に圧縮できる。あるいは発話の方を残し、地の文を削る。同じ語の往復が、窓口のリアリティではなく文章のリズムの都合で動いている印象を与える。

総括——残すべき核

残す:「人それぞれ」が責任を客の性格に転送する装置であるという観察。性格は数式に乗らないので助言の正誤も問われない、という骨。下落の朝にしか本当の許容度はわからない、という静/動の事実。タカハシ自身が毎月用紙を配っているという当事者性。
削る:冒頭の「四回目」、適合性原則の権威語、「動く事実/動かない名詞」のレトリック、リーマン引き合い、結末の核の再提示。
加える:用紙そのものの物理的ディテール(紙質、合計欄の位置、6か月前との回答の食い違い)、青年の退室の動作の具体(ペンを置いた、印鑑を押した、書類が回った、など)一つ。

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