ケイさんは、二つ上の、女子バスケ部の先輩だった人。卒業して、大学で山岳部に入った。今は、毎週みたいに山に登ってる。
現役のとき、一回だけ、合同練習で一緒になった。フリースローのフォーム、直してもらった。それだけ。向こうは俺のこと、たぶん覚えてない。
でも俺は、ケイさんのインスタをフォローしてる。
ケイさんの山の写真は、盛ってない。フィルターもかかってない。ただ、朝の山が写ってる。
雲が、下にあるんだよ。山の上から撮ると。空じゃなくて、足の下のほうに、雲がある。
キャプションも短い。「三時起き。寒い。」とか。「下山。膝、笑ってる。」とか。盛らない人だ。盛らないのに、すごいのは伝わる。
俺、あれ見るたびに、なんか、いてもたってもいられなくなる。
今日、休み時間に、サカモトにケイさんのインスタ見せた。「これ見て、ケイさん、また登ってる」って。
サカモトは「ふーん」って言った。スマホ、ちょっとしか見なかった。
なんか、つまんなそうだった。山の話、興味ないのかな。まあいい。
もうちょっと見ててほしかったけど、サカモトは「私、山とか登らないし」って言って、自分の席に戻った。
家で、またケイさんの写真を見てた。
ケイさんは、俺に「山に来い」なんて一回も言ってない。フォローしてることも、たぶん知らない。
なのに俺は、勝手に、山に行きたくなってる。あの雲の下に、自分も立ってみたい。
ケイさんは、俺に何も頼んでない。なのに。
憧れって、こういうことか。
いつか俺も、あの山に登る。今はまだ、写真を見てるだけだけど。膝が笑うところまで、行ってみたい。
……まず、靴からだな。登山靴、けっこう高いらしい。バイト、するか。