「かわいいですね」が嬉しくない理由
——インスタのDM

サカモトミユ

知らない人からDMが来た。「かわいいですね、よかったら仲良くしてください」。

嬉しくなかった。褒められたのに。「かわいい」って言われたのに。嬉しくなかった理由を、自分でもわかってなかったから、書いて確かめる。

知らない人

インスタのDMに通知が来たのは夜だった。お風呂上がりで、髪乾かしながらスマホ見てた。

知らない男の人。アイコンは横顔のシルエットみたいなやつ。フォロワー数とか見てない。見る前に文面で「あ、これ」ってなったから。

「かわいいですね、よかったら仲良くしてください」

テンプレだ。コピペかどうかはわかんないけど、コピペでも成立する文章。私の名前も入ってない。どの投稿を見て送ってきたのかもわかんない。カフェの写真か、友達と撮ったやつか、ストーリーか。どれでも同じ文面で送れる。

「かわいいですね」の「ですね」が、なんか、よそよそしくて丁寧で、だから逆にこわかった。丁寧なのにこわい。変な感じ。

写真に言ってる

なんで嬉しくないのか、考えた。

褒められて嬉しくないのは変だと思う。友達に「今日の髪いい感じ」って言われたら嬉しい。お母さんに「そのスカート似合うね」って言われたら、まあ、ちょっと嬉しい(お母さんには言わないけど)。

でもDMの「かわいいですね」は嬉しくない。

たぶん、その人は私のことを知らない。プロフィールに書いてある「カフェ巡り」と絵文字しか知らない。投稿の写真しか見てない。私のことを何も知らないのに「かわいい」って言ってる。

それは私に言ってるんじゃなくて、写真に言ってる

写真の中の私は、光の加減がいい角度で、ちょっと盛れてて、背景にいい感じのカフェの壁がある。その写真の中の、都合のいい部分だけを見て「かわいい」。私が今朝、前髪が決まらなくてキレそうになったこととか、数学のテストがやばかったこととか、そういうのは知らない。知らなくて当たり前なんだけど、知らないまま「かわいいですね」って言われると、なんだろう、すかすかする。

コンビニの「あっつ」

DMを閉じて、なんとなく思い出したことがある。

コンビニの帰り道で、タケウチが肉まん持って「あっつ」って言ったやつ。あれ。

「あっつ」は別に褒め言葉じゃない。私に向かって言ったわけでもない。肉まんに言った。肉まんが熱かっただけ。それだけ。

でもあの「あっつ」は、なぜかずっと覚えてる。

「かわいいですね」は私に向けて言ってる。ちゃんと私宛に送ってきてる。なのに覚えてない——というか、覚えたくない。忘れたいわけでもないけど、残らない。すぐ蒸発する。

「あっつ」は私に向けて言ってない。肉まんに言った。なのにずっと残ってる。なんで?

そこにいたかどうか

しばらく考えて、たぶんこういうことだと思った。

タケウチが「あっつ」って言ったとき、私はそこにいた。同じコンビニの前で、同じ空気を吸ってた。タケウチの息が白かったのを見てた。肉まんの湯気が出てたのも見てた。あの瞬間を、同じ場所で、同じ時間に、共有してた。

DMの人は、どこにいるんだろう。画面の向こう。それはわかる。でも「向こう」がどこなのかわからない。部屋なのか電車なのかトイレなのか。何時に送ったのかは見ればわかるけど、その「何時」に意味がない。私と共有してる時間が、ない。

「あっつ」は私に向けて言ったわけじゃない。肉まんに言った。でもその瞬間にそこにいた
「かわいいですね」は私に向けて言ったのに、そこにいなかった

向けられた言葉なのに、届かない。向けられてない言葉なのに、届く。変なの。でもそうなんだと思う。

DMの向こう側

DMって、手紙に似てるようで全然違う。

手紙は、書くのに時間がかかる。便箋選んで、ペン持って、字を間違えたら書き直して、封筒に入れて、切手貼って、ポストまで歩く。その手間のぶんだけ、「あなたに送ってる」感がある。

DMは3秒で送れる。「かわいいですね、よかったら仲良くしてください」を100人に送っても5分かからない。コピペして、送信、コピペして、送信。私がその100人のうちの1人かもしれないし、1000人のうちの1人かもしれない。わかんない。わかんないけど、そういう可能性がある時点で、もう嬉しくない。

タケウチの「あっつ」は、あのコンビニの前で、あの瞬間にしか存在しない。コピペできない。使い回せない。もう一回同じ「あっつ」は起きない。

一回きりの言葉は、たとえ肉まんに向けたものでも、コピペの「かわいい」より重い。

未読のまま

DMは未読のままにした。

ブロックはしなかった。削除もしなかった。既読もつけなかった。ただ、開かない。

ブロックすると、なんか、こっちがダメージ受けたみたいじゃん。「嫌だったからブロックしました」みたいな。嫌だったわけじゃない。嬉しくなかっただけ。嫌と嬉しくないは違う。

削除すると、なかったことになる。なかったことにするほどのことでもない。ただの「かわいいですね」だし。

既読をつけると、返事を考えなきゃいけなくなる。返さなくても「既読スルーした人」になる。めんどくさい。

だから未読。未読って便利。何もしてないのに、何かを選んでる感じがする。「開かない」っていう行動を、してる。

自分のことを知らない人に言われる「かわいい」

これ、もしかしたら贅沢なことを言ってるのかもしれない。「かわいいって言われて嬉しくないなんて」って思う人もいると思う。

でもさ。

知らない人に「かわいい」って言われるのと、知ってる人に「あっつ」って言われるの、どっちが嬉しいかって聞かれたら、私は「あっつ」のほう。

友達のユイが「ミユ今日顔死んでるよ」って笑いながら言ってくるのも、「かわいいですね」より嬉しい。顔が死んでるのに嬉しいの、意味わかんないけど。でも「顔死んでるよ」は、今日の私の顔を見て言ってる。今ここにいる私に言ってる。

「かわいいですね」は、いつの、どの私に言ってるのか、わからない。

自分のことを知らない人に褒められるより、自分のことを知ってる人にけなされるほうが、たぶん距離が近い。
距離が近いほうが、私は嬉しい。

タケウチに聞いてみたいこと

これは絶対聞かないけど。絶対。一生聞かないけど。

タケウチは、知らない人からDMが来たことあるんだろうか。「かっこいいですね」とか。たぶんない。タケウチのインスタ、鍵垢だし、投稿3つくらいしかないし、プロフィール写真ないし。

タケウチが私のインスタを見てることがあるかどうかも、知らない。フォローはされてない。でもフォローしてなくても見れるから(鍵かけてないから、私)、見てるかもしれないし、見てないかもしれない。

もしタケウチが私の投稿を見て、何か思ったとしても、たぶんDMは送ってこない。「かわいいですね」なんて絶対言わない。それはなんとなくわかる。

じゃあ何を言うんだろう。「あっつ」みたいなことを言うんだろうか。写真に写ってるカフェのコーヒーについて「それうまいの」とか。投稿じゃなくて、コーヒーに言う。肉まんに言ったみたいに。

たぶん、誰かの言葉が嬉しいかどうかは、言葉の中身じゃなくて、言葉がどこから来たかで決まる。
画面の向こうからか、隣からか。
私に向けてか、肉まんに向けてか。

——肉まんに負ける「かわいい」って、ちょっと面白いね。

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このページの記事はAI(Claude)を用いて作成・編集されています。サカモトミユは架空の人物です。