サワタリミオ(37歳・地質調査のボーリング技士15年)
昼に掘れない場所がある。車が途切れない交差点、終電までホームが動かない駅前。そういう土地の下を見たいとき、私たちは夜に出る。
その夜は駅前の歩道の事前調査だった。終電が出てから作業帯を組む。コーンを並べ、矢印板を出し、片側を交互通行に絞る。誘導員が赤い棒を振ると、減った車が一台ずつ脇を抜けていく。アスファルトの上にやぐらを組むときは、まず鉄板を敷いてベースを水平に据える。土と違って、舗装は重さを逃がしてくれない。
掘る前に、埋設管の図面を広げる。ガス管、水道管、通信管が、地面の浅いところで何層にも重なっている。図面と現物は、三十センチずれていることなど珍しくもない。だから先に手掘りで管の天端を出すまで、機械は入れない。最初の一掻きはスコップで、土を撫でるように剝ぐ。図面を信じて掘る人間は、いつか管を割る。
住宅街に近い側では、午前一時すぎに苦情の電話が一本入った。三階の窓だという。班長はロッドを継ぐパイプレンチの当たり面に布を巻き、締める一打ちのたび、こちらが息を止めた。それでも金属の音は、夜の住宅街では昼の三倍に聞こえる。窓の明かりがひとつ消えるまで、私たちは次の一本を継がなかった。
抜き上がったコアを、投光器の白い光の下で見る。昼なら茶色に見えるロームが、ライトの下では灰がかって沈む。色の記録には、光の癖を一行、野帳の隅に書き添える。「投光器下・実色より暗」。翌朝、太陽の下でもう一度見て、二つの色のあいだを取る。地面は、当てる光で表情を変えた。
午前二時、交代で冷えた弁当をかき込む。仮眠は車の中で二十分。コーンの向こうを車が一台通るたび、寝ているはずの体のどこかが、跳ねるように反応してしまう。眠れていない。
朝の通勤がはじまる前に、穴を埋め戻し、舗装を仮復旧し、コーンを片づける。後半は時計と相談しながら、巻くように手を動かす。仮復旧の黒い舗装は、ローラーをかけ終えてもまだ少し温かく、近づいてきた朝焼けの色を、油の浮いた表面に薄く映していた。
トラックにコーンを積み終えてふり返ると、さっきまでやぐらを立てていた場所は、一本の道路に戻っている。最初の通勤者が、靴底でその黒い舗装をひとつ踏んで、何も読まずに通り過ぎていった。私たちは野帳に、昨夜の縞を畳んで持って帰る。