編集者(匿名)による第一稿への指摘。対象:日程調整メールの修辞 #1(第一稿)/書き手:キリシマミサキ
全体要旨
シリーズ第一回として、「日程調整メールの定型は手抜きではなく機能」という主題は明快に立っている。書き手(桐島美咲)の秘書としての職能と、定型解剖というテーマが、自然に整合している。冒頭に「結論から書きます」と置く構成は、桐島の行動指針「結論から述べる」に沿っており、シリーズの個性として機能している。問題は、第一稿が 「秘書ノウハウ書のお手本」として整いすぎていることだ。具体的には:(1)章立てが秘書ノウハウ書の章構成と同じ、(2)「アンカリング効果」など心理学用語の混入、(3)「お手数ですが/ご多忙のところ恐縮ですが」を四〜五個並べるパロディの手つき、(4)結末の自己引用(「ポエムフリー宣言」)、(5)シリーズ予告。シリーズの主題は良いが、第一稿の運びが、ビジネス系自己啓発本の章構成に乗っている。
結論から書きます。日程調整メールの「候補日提示」は、定型でできています。
桐島の行動指針「結論から述べる」を、本文の冒頭で明示している。これは書き手のキャラクター提示として効果があるが、宣言してから結論を述べる手つきは、宣言自体が一拍の前置きになる。「結論から書きます」を取って、いきなり結論から書けば、宣言と結論の二段にならず、本当に結論から始まる。
第二稿では、「結論から書きます」を取り、いきなり「日程調整メールの『候補日提示』は、定型でできている。定型は……」と始める。書き手の行動指針を、本文で実演する代わりに、宣言してしまうのは、皮肉に近い。
これは秘書業界の口伝のようなものですが、実務的には、再調整の往復回数を最小化する効果があります。
「秘書業界の口伝」という権威付けが、書き手の業界知識を読者に提示する装置として機能している。実際には、「候補は三つ」というルールは、秘書業界に限らず、ビジネス書・ビジネスマナー本でも広く言及されているもので、特に「業界の口伝」というほど秘伝ではない。書き手の権威付けが、やや誇張されている。
第二稿では、「秘書業界の口伝」を取り、「実務でやっているうちに、自然と三つに落ち着いた」程度に、書き手の足元の経験から書く。業界の権威に頼らない。
これは、相手も第1希望に同意しやすい、という心理的傾向(最初に提示された選択肢の選択率が高い、いわゆるアンカリング効果)に乗る並べ方です。
「アンカリング効果」という心理学用語が、本文に括弧書きで挿入されている。これは前シリーズ「マネー見出し」「英語教科書」で繰り返し批評された、書き手の知識ショーケース化の癖。秘書の足元の経験から書くべき部分を、心理学の用語で説明し直している。
第二稿では、用語の括弧書きを取って、「最初に出した候補が選ばれやすい、という感じはあります」程度の経験的な書き方にする。専門用語のラベルを伏せる。
「お手数ですが、ご多忙のところ恐縮ですが、誠に勝手ながら、お忙しいところ恐れ入りますが、◯◯していただけますと幸いです」と、枕詞が四つも五つも重なると、本題に入るまでが長くなって、相手の時間の効率を、結果的に奪います。
枕詞を五つ重ねた極端な例を挙げて、定型の過剰使用を批判している。これは構文として印象的だが、「実務ではこんなメールはほぼ来ない」極端例で、書き手の批判の説得力としては、やや効きすぎる。漫画的な誇張で、現実のメール体験から離れる。
第二稿では、五つ重ねの極端例を、二つか三つに減らす。「お手数ですが、ご多忙のところ恐縮ですが、誠に勝手ながら、◯◯していただけますと幸いです」程度の、現実に見ることのある密度に。
私自身、過去のエッセイで「ポエムフリー宣言——メールからポエムを消してみた」という実験を書いたことがあります。あの実験で気づいたのは……
結末で、書き手の過去エッセイを自己引用している。シリーズ間の連続性を読者に示す効果はあるが、サイトの内輪読者向けの仕掛けで、本シリーズが想定する一般読者(業務メールの定型に違和感を持つ事務職)には、伝わらない。
第二稿では、自己引用を削るか、エッセイ名を出さずに「以前、メールから定型を全部消す実験をしてみたが」程度に書く。「ポエムフリー宣言」というエッセイのタイトルは伏せる。
本シリーズで、その「消さないほうがいい場面」を、もう少し細かく見ていきたいと思います。
本文末のシリーズ予告。前シリーズから繰り返し批判されている運営宣言型の結末。一話完結を維持するなら、本文中の予告は削り、記事末リンク集に任せる。
section-label:定型は、薄い愛情
……日程調整メールの定型は、書き手の手抜きではなく、受け手の認知負荷を最小化するための、薄い愛情のような働きをしている、と感じることがあります。
「薄い愛情」という比喩が、section-label と本文に出ている。前シリーズで批評された「アフォリズム化」癖の再発。記憶に残るフレーズだが、それが書き手のキメ台詞として機能してしまうと、シリーズ全体が「桐島さんの名言集」のように見えるリスクがある。
第二稿では、section-label を「定型は、消せるが」程度の地味な見出しに変え、「薄い愛情」のフレーズを取る。「定型は、相手の認知負荷を下げる装置として機能している」と平らに書く。
「いただけますと幸いです」の代替バリエーション四つを並べるセクション、それから「期日を、書くか書かないか」のセクション、いずれもFP実務エッセイ・ノウハウ書の章構成として整いすぎている。一つのテーマに二つも三つもセクションを割いているのが、本作の章構成を、ノウハウ書ぽくしている主因。
第二稿では、「期日」のセクションを削るか、「いただけますと幸いです」のセクションと統合する。一テーマ一セクションを徹底し、章構成のノウハウ書感を薄める。
第一回は、シリーズの主題(定型は機能の選択)が明快で、書き手のキャラクター(結論から述べる秘書)の提示にも成功している。問題は、本文の章構成と書きぶりが、ビジネス系自己啓発本の作法に乗りすぎていること。「秘書業界の口伝」「アンカリング効果」「枕詞五つ重ね」「アフォリズム化」「自己引用」「シリーズ予告」が、全部同じ第一稿に詰まっている。
第二稿に向けて:
桐島の秘書としての足元の経験を、ビジネス書の言葉で再パッケージしないように、第二稿に書き直す。