本日はお時間を
日程調整メールの修辞 #5 お礼(最終回)

キリシマミサキ(秘書)

日程調整から打ち合わせ当日までの一連のやりとりの最後に、お礼メールを送ります。打ち合わせが終わったあとの定型として、形式が固まっているのですが、固まっているわりに、書き手によって温度が違う、という独特な領域です。

件名:本日のお打ち合わせのお礼

◯◯様

本日はお忙しいところお時間を頂戴し、誠にありがとうございました。
◯◯につきまして、貴重なお話を伺うことができ、大変参考になりました。

本日のお打ち合わせを踏まえまして、◯◯の件は、◯月◯日までに改めてご連絡させていただきます。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

終わってから、なぜ書くか

打ち合わせは終わっているのに、なぜお礼のメールを別便で送るのか。これは、儀礼的な定型のように見えて、複数の機能を持っています。

第一に、打ち合わせの内容の確認。「◯◯につきまして、貴重なお話を伺うことができ」と書くことで、こちら側が、その日の議題を正しく受け止めた、ということを、文面で確認します。確認の文章があると、相手側は「内容が正しく伝わったか」を心配しなくて済みます。

第二に、次のステップの予告。「本日のお打ち合わせを踏まえまして、◯◯の件は、◯月◯日までに改めてご連絡させていただきます」と書くことで、これからのアクションの予定が、相手と共有されます。共有されると、相手側は、こちら側からの次の連絡を、予測しやすくなります。

第三に、関係性の維持。これが、お礼メールの本来の機能です。打ち合わせが終わったあと、関係性が空白の時間に入ります。空白の時間に、何もメールが届かないと、関係性は、薄く、遠くなります。お礼メール一通を入れることで、空白を埋めて、関係性を、次のやりとりにつなげます。

「貴重なお話」の中身

お礼メールでよく使う「貴重なお話を伺うことができ」という構文は、相手の話の内容を、形式的に高く評価する定型です。「貴重」は、評価の度合いとして、上のほうに位置します。「興味深いお話」は、もう少し中立的。「参考になるお話」は、こちら側の利益に焦点を当てた言い方。

「貴重」と書くか、「興味深い」と書くか、「参考になる」と書くかは、相手との関係性と、実際の話の内容で、判断します。相手が役職の高い方や、専門的な知見を持つ方の場合、「貴重」が標準。相手が同等の立場で、議論的なやりとりだった場合、「参考になる」が自然。「興味深い」は、その間で、両方の用途に使える中庸の表現です。

注意点として、「貴重」を使いすぎると、お世辞に近づきます。たいした内容ではない打ち合わせのあとに「貴重なお話を伺うことができ」と書くと、相手から「形式だけだな」と気づかれる可能性があります。気づかれると、お礼メール全体の信頼度が下がります。書く前に、本当に「貴重」と思っているか、を一拍考える時間が、たぶん必要です。

「貴重」「興味深い」「参考になる」は、相手の話の内容に対する評価を、形式として刻む語彙。

「ご多忙のなか」の繰り返し

お礼メールの冒頭、「お忙しいところお時間を頂戴し」という枕詞は、日程調整シリーズの第一回・第二回・第三回・第四回で見てきた「お手数ですが」「ご多忙のところ恐縮ですが」と同じ機能を持っています。相手の時間と労力を消費させたことへの、形式的な詫びを兼ねた感謝です。

違うのは、お礼メールでは、この枕詞が、感謝の本体と直結していることです。「お忙しいところお時間を頂戴し、誠にありがとうございました」と一文で、枕詞と感謝が同時に機能します。日程調整メールの「お忙しいところ恐縮ですが」が依頼の前置きだったのに対して、お礼メールでは「お忙しいところお時間を頂戴し」が感謝の構成要素そのものになっています。

この構文は、ある独特な認識を示しています。相手が「お忙しい」状態で、こちら側との打ち合わせのために「お時間を頂戴」したことへの感謝。相手の時間が有限である、という事実を、文面の冒頭で確認するのです。確認することで、こちら側が、相手の時間を軽く扱っていない、というサインを送ります。

送るタイミング

お礼メールは、いつ送るか、というタイミングの判断もあります。打ち合わせ直後に送るか、当日中に送るか、翌朝に送るか。

打ち合わせ直後は、お礼の熱量が高いタイミングですが、相手側もまだ移動中や次の予定中で、メールを開けないことがあります。当日中は、標準的なタイミング。仕事の終わり頃に、まとめて送ることで、相手は翌朝に確認できます。翌朝送る場合は、一晩おいて、内容を整理してから送るので、内容の質が上がる代わりに、お礼の熱量が少し下がります。

相手の役職が高い場合、当日中の遅い時間に送るより、翌朝送るほうが、丁寧な印象を与えます。「夜遅くまで仕事をしている」サインを送るより、「朝一番で連絡」のほうが、相手の生活リズムを尊重した形になります。

逆に、急ぎの案件で、お礼の中に次のアクションの確認が含まれる場合は、当日中、できるだけ早く送ります。アクションの遅延を避けるために、お礼のタイミングを早めます。

関係性の維持装置

シリーズ最終回として、お礼メールという題材を選んだのは、これが日程調整メールのシリーズの最後にふさわしい場面だからです。日程調整は、「これから会う」ための準備のメールですが、お礼は、「会ったあと」のメールです。会ったあとに何を書くかで、次に会うかどうかが、決まります。

お礼メールが、関係性の維持装置として機能するのは、この「次に会うかどうか」の予告を、文面に含めるからです。「今後とも、どうぞよろしくお願いいたします」という結語は、「これからも関係を続けたい」という意思の、形式的な表明です。これがないと、打ち合わせは一回で終わりかもしれない、というサインになります。

同じ意思を、別の言葉で表すこともできます。「引き続き、ご指導よろしくお願いいたします」は、相手を上位に置く形。「今後ともご縁を大切にさせていただければと存じます」は、関係性の継続を強調する形。「またの機会を楽しみにしております」は、再会の期待を示す形。これらの中から、関係性の温度に応じて、選びます。

書きすぎないこと

お礼メールで気をつけたいのは、書きすぎないことです。打ち合わせの内容を細かく要約したり、感想を長く書いたり、次のアクションを五つも六つも並べたりすると、お礼の本来の機能(関係性の維持)が、薄れます。

お礼メールの理想的な長さは、四〜五行程度です。冒頭のお礼、内容への評価、次のアクションの予告、結語。それぞれが、一行か二行で収まる程度。長すぎると、相手の読む時間が増えて、お礼が負担に変わります。

過剰なお礼は、別の問題を生むこともあります。「貴重なお話を伺い」「大変参考になり」「今後の業務に活かしてまいります」「重ねて感謝申し上げます」と、感謝の語を四つも五つも並べると、お世辞のように響きます。お礼の重さは、量ではなく、質で表現するほうが、相手に届きます。

日程調整メールが終わるところ

本シリーズで、私は日程調整メールの五つの場面(候補日提示・リスケ・急キャンセル・多者間調整・お礼)を、それぞれの定型の中身を、内側から少し解いてきました。シリーズの結論は、書き手のほうで提示しません。読者の方が、自分の仕事のメールを書くときに、何かが少し違って見えてくれば、たぶん、それで十分です。

お礼メールの最後に書く「今後とも、どうぞよろしくお願いいたします」は、本シリーズの結語にも、そのまま流用できる気がします。次の機会まで、関係性を、少し開いた状態にしておく。形式の中で、開いた状態を保つ。それが、日程調整メールの定型が、長年かけて作り上げてきた、たぶん最も大切な仕事です。

——補記:この第一稿は公開後に辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。シリーズ最終回。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。本文中のメール例は構文を再現した架空合成例で、特定企業・個人への言及ではありません。