キリシマミサキ(秘書)
三者以上の関係者が絡む日程調整は、二者間とは別の難しさがあります。誰の都合が優先されるか、誰の名前を出していいか、全員の都合が合わなかったときにどう仕切り直すか。これらの判断が、文面の中に、暗黙に組み込まれます。
件名:◯◯の件 日程調整のご相談(再)
B様
(cc: A様)
お世話になっております。
◯◯の件、A様より◯月◯日はご都合難しいとご連絡をいただきました。
B様、お手数ですが、下記候補日でいかがでしょうか。
第1希望:◯月◯日(◯)10:00 - 11:00
第2希望:◯月◯日(◯)14:00 - 15:00
A様にもご都合を再度ご確認のうえ、B様のご都合と合わせて、最終確定とさせていただければと存じます。
よろしくお願いいたします。
多者間調整メールで、最初に判断するのは、「A様の名前を、B様への連絡の中で出していいか」です。出すと、A様の都合の事情が、B様に伝わります。出さないと、B様には、こちら側の調整の事情が見えず、こちらが「気まぐれに候補を変えている」ように見える可能性があります。
原則として、名前を出します。「A様より◯月◯日はご都合難しいとご連絡をいただきました」と書くことで、B様に対して、こちら側が候補を変えている理由が、明確になります。理由が見えると、B様も再調整に協力しやすくなります。
名前を出さない場合は、A様の都合の事情が、B様に開示すると問題になる場面に限られます。その場合、「諸般の事情により、再度日程調整のご相談です」とぼかします。ぼかしたぶん、B様の協力を得る難易度は、上がります。
多者間調整で繰り返し使う表現が、「皆様のご都合を踏まえ」「全員のご都合が合う日程として」「皆様にご無理のない日程で」です。これらは、特定の誰かを優先したと書かずに、調整の結果だけを伝える便利な定型です。
この定型には、注意深く使われる二段構造があります。表面上は「全員の都合を等しく踏まえた」と書きながら、実際の調整では、立場の高い方や、外部の取引先や、案件の主導者の都合が、暗黙に優先される。優先順位の存在を表面上は否定しながら、実際の動きでは、順位に従う。
これは隠蔽ではなく、配慮として機能しています。優先順位を明示すると、優先されない側に対して、失礼になります。「A様(取締役)の都合を最優先で組ませていただきました」と書くと、B様(部長)の都合が後回しにされたことが、文面で確定してしまう。「皆様のご都合を踏まえ」と書くことで、表面の文面では順位を消しつつ、実際の調整は順位通りに進める、という二段の運用が成立します。
「皆様のご都合を踏まえ」は、優先順位を表面で否定しながら、実際は順位に従う二段構造を持っている。
「皆様」を使いすぎると、配慮の薄さが、別の形で透けます。「皆様のご都合を踏まえ」と書いておきながら、実際には特定の人の都合だけを聞いて決めた場合、後から関係者の中で「実は自分の都合は確認されていなかった」と気づかれると、信頼を失います。
書く前に、本当に全員の都合を確認しているか、または、確認していないことを承知の上で「皆様」と総称しているか、を意識する必要があります。「皆様」を使わない代替表現としては、「ご出席予定の方々のご都合を確認のうえ」「関係者各位のスケジュールを踏まえ」などがあります。これらは、「皆様」よりも、確認対象の輪郭をはっきりさせる効果があります。
多者間調整で、よく直面するのが、全員の都合が合わない、という事態です。三人の都合の交点を取ろうとして、候補日が一つも見つからない。これは、関係者が増えるほど、頻発します。
このときの選択肢は複数あります。最も柔軟性の高い参加者に別日への移動を依頼する、開催時期を後ろ倒しにする、参加者の一部を別の機会に分ける、など。どれを選ぶかは、調整の優先順位と、関係者の関係性によります。
選ぶときに重要なのは、調整の透明性と、関係性の配慮の、両立です。完全に透明にすると、誰の都合をなぜ優先したか、が全員に見えて、優先されなかった側に不満が残ります。配慮を優先して隠しすぎると、関係者の中で疑心暗鬼が生まれて、信頼が下がります。標準的なバランスは、「調整の理由は明示する、優先順位は明示しない」あたりです。「A様より◯月◯日はご都合難しいとご連絡をいただきました」と理由を明示する一方、「A様の都合を最優先で組ませていただきました」と優先順位は明示しない。
多者間調整は、関係者全員が「自分は配慮された」と感じる結末に落ち着くのが、理想です。実際には、誰かが多少の不満を抱えることもあります。それでも、不満が表に出ないように、文面の中で配慮を尽くしながら、調整を進める。それだけのことを、「皆様のご都合を踏まえ」という一語が、表面で支えています。