張りの、下(第二稿)
工房に入った年、見えない層を見ると決めるまで

シオデマモル(47歳・椅子張り職人25年)

客が触れるのは表の布だけだ。だが座り心地を決めているのは布ではない。布をめくった下の、バネ、麻布、ウレタン、わたの積み重ねだ。私は二十五年、その下の層を作ってきた。表に出る仕事は一つもしていない。

二〇〇一年、二十二歳の春に工房に入った。親方は六十を過ぎた人で、口数は少なかった。最初の数ヶ月は材料を運び、古い椅子を解体し、床のわたを掃いていた。ある日、親方が一脚のダイニングチェアを前にして言った。「客は布を選びに来る。だが座り心地は布じゃない。下の層だ。見えないところで椅子は決まる」。それだけだった。

最初に覚えたのは解体だ。応接用の三人掛けを剥がしたとき、層が年代順に出てきた。いちばん上は新しい化繊のわた、その下に黄ばんだウレタンが二枚、いちばん底にシュロが詰めてあった。シュロの上のバネは、一本だけ針金で結び直してあった。前にこれを直した職人が、一本だけ折れたバネを替えて、あとはそのまま張り直したのだ。剥がせば、前の人がどこで手を抜き、どこで丁寧だったかが全部出てくる。

ウレタンは密度で選ぶ。ダイニングチェアなら、下に密度の高い硬めを二〇ミリ、上に柔らかいのを三〇ミリ重ねる。下が支え、上が当たりを受け持つ。応接なら、もっと沈ませて、底に着く手前で止める。座る人の体重と、長く座る椅子か短く座る椅子かで、この重ねを変える。柔らかいだけのソファは、十分で腰が痛くなる。柔らかいのは上の三〇ミリだけでいい。

表布を留めるのは鋲とタッカーだ。布を引きながら、均一の張りで打っていく。難しいのは角だ。二方向から来た布が、角で必ず余る。入って三年目のある日、私の張った角に布が小さく寄っているのを見て、親方が私の手から布を取った。角に一筋、切り込みを入れた。余った分を切れ目で逃がし、二枚に分けて折り返すと、シワが消えた。「布は引いて消すんじゃない。逃がして消すんだ」。それだけ言って、親方は次の椅子に移った。

店舗の仕事には納期がある。飲食店の椅子は、店を開けている時間には引き取れない。閉店後に二十脚運び出し、半分の十脚を先に張って開店前に戻し、客席を半分使ってもらいながら、翌日に残りを入れ替えた。座り心地を作る仕事は、人の商売を一日も止めない段取りの仕事でもある。

革と布では伸び方が違う。布は織りの目の方向にだけ伸びる。革は全方向に少しずつ伸びて、しかも引きすぎると戻らない。入って五年目、一万円した牛革のソファの背を、布と同じ力で引いて留めた。翌朝、革は伸びきって、座面に向かって一本の筋が寝ていた。張り直しの革代は、その月の私の給料から引かれた。革は、布より弱く引く。手が覚えているのは、その失敗のほうだ。

二十五年で張った椅子は数え切れない。覚えているのは、剥がした椅子のほうだ。バネを一本だけ結び直してあった、あの応接椅子。それを剥がした日に、私は自分が表の布ではなく、下の層を見る人間になったのだと知った。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。