※本エッセイおよび本レビューはすべて創作です。登場人物・学校・出来事はすべて架空のものであり、実在のいかなる個人・組織とも関係ありません。
本稿はソノダ編第一稿への外科的指摘。書き手であるソノダマリ自身を一人称で書くというメタ構造の難しさは、彼女が「賢く書ける人」であるがゆえに、エッセイ全体が「賢く書かれた告白」に着地してしまう点にある。本作はその罠の手前まで来ている。
第一稿は「リポエマイズを消した瞬間」「秘密ですを受け取る瞬間」「『了解です』を受け取る瞬間」という3つの強度の高い場面を持っている。一方で、ソノダ自身の自己分析が常に正確すぎ、「教えるとは引き取らないこと」という結論にきれいに着地しすぎる、という構造的弱点を抱えている。
強み
弱点
第2章「『リポエマイズ』(depoematize)は、私が自分の連載で勝手に使い始めた造語だ。『ポエマイゼーション』(鈴木潤平氏のコピー過剰の指摘)の逆操作として、『ポエム化を解除する』『盛りを剥がす』という意味で」。
この説明、本作の読者は連載50回を読んできた読者であり、すでに知っている。知っている読者に向けた説明的な3行は、本作のテンポを殺す。同時に、知らない読者には説明として固すぎ、エッセイ的な滑りも失う。
処方:3行を1行に圧縮する。「『リポエマイズ』。ポエマイゼーションの逆操作として、私が連載で勝手に使い始めた造語」程度に。あるいは「リポエ——」とだけ書いて、初出読者には謎のまま残し、シャワーの場面で「自分の用語を渡しそうになった」と言うほうがミステリアスに効く。
第2章「私はあのとき、彼から議論を奪いそうになっていた」。
送信した直後ではなく、翌朝のシャワーで気づく、という時間差は良い。だが、シャワー中に「奪いそうになっていた」と自分の動機を完全言語化するのは、賢い書き手の整理として整いすぎている。
処方:「奪いそうになっていた」を「彼の議論を、私の用語に置き換えそうになっていた」に変える。「奪う」という強い動詞ではなく「置き換える」という地味な動詞に。シャワーの段階での自覚は、半分しかしていないほうがリアル。残り半分は、第5章の「秘密です」を受け取ったときに完成するほうが、構造として強い。
第3章「私は読者に『あなたの違和感はこういう構造です』と、答えを先に渡してきた」「整理されたモヤモヤは、読者の手から離れて、私の連載のコレクションに収まる」。
これは構造として正しい指摘だが、ソノダ自身が自分の連載をこれだけきれいに反省できる時点で、まだ完全に手放せていない。完全に反省できる人は、まだコントロールしている。
処方:第3章は、自己分析を半分まで書いて、途中でやめる。「読み直してみて、なんか、嫌な気分になった。なんでかうまく言えないけど」程度の言語化以前で止める。手帳に挟む一行「言葉を渡したつもりで、言葉を借りに行ってた」は、その言語化以前の感触を、ようやく一語一語、置いた感じにする。
第5章「これだ。これが、たぶん、教えるという仕事の終わり方だ」、第8章「書かないことが、たぶん、教師としての私の唯一の仕事だ」。
「教える=引き取らないこと」「書かない=唯一の仕事」と、教えるという行為を一行で定義する身振りが反復される。本作のテーマを直接書きすぎており、読者が自分で気づく余地を奪う。
処方:「教えるという仕事の終わり方だ」「教師としての私の唯一の仕事だ」を両方とも削る。代わりに、より弱い表現で:「これは、たぶん、何かが終わって、何かが始まる場面だ」「いつもどおりに書くしかなかった」程度に。定義は読者の頭の中に残す。
第6章「頭の中で、いくつもの返信を作った」のあとに3つの返信が箇条書きで並ぶ。これはエッセイの流れの中で明らかに「演出」と認識される構造になっている。「私は3つも返信を作ったけど全部送らなかった」と読者に見せたい意図が透ける。
処方:3つを2つに減らす。3つ目の「リポエマイズの最高の事例だよ」だけを残し、「これは絶対に送ってはいけない」と一行添える。残りの「正しいね」「思う」系の自評価は、本文に溶かす:「『正しい』とか『思う』とか、私が評価する系の返信を何回か作って、何回か消した。結局——」と一行で済ませる。整然とした列挙ではなく、混乱として書く。
最終highlight「『リポエ——』を消したあの夜から、私は一週間、ずっと自分の言葉を消してきた。消した言葉のぶんだけ、彼の言葉がそこに残った。たぶん、それが、教えるということだった」。
「それが、教えるということだった」と、過去形で完成形として総括する身振り。本作の他の場面で「言葉にできないということは、それでよい、ということだ」と書いておきながら、最終段で言葉にしてしまっている矛盾。
処方:「それが、教えるということだった」を削る。「消した言葉のぶんだけ、彼の言葉がそこに残った。それでよかったのか、まだわからない。でも、それでよかった気がする」程度に着地させる。結論を未完で終わらせる。
削る:第2章「リポエマイズ」の3行解説、第2章「議論を奪いそうになっていた」、第3章の整理整頓、第5章「教えるという仕事の終わり方」、第6章の3つの箇条書きのうちの2つ、第8章「教師としての唯一の仕事」、最終highlightの「それが、教えるということだった」。
足す:第3章のシャワー後の「うまく言えない感じ」、第6章の混乱描写。
保つ:「リポエ——」を打ちかけて消す所作、シャワーで滴る音、「秘密です」を受け取る瞬間、編集さんの「いつもどおりですね」、タケウチの「了解です」、手帳の一行「言葉を渡したつもりで、言葉を借りに行ってた」。
タイトルは『「リポエ——」を消した夜——文化祭、ソノダの一週間』そのまま据え置きでよい。タイトル自体が本作の最良の凝縮になっている。
レビュアー・横山研編集部(キリシマミサキ+ハヤシアヤカ+アンドウユイの連名/ソノダは本人のため辞退)