タケウチソウタ
進路面談があった。担任のモリタ先生と二者面談。15分。たった15分で俺の人生の方向が決まるのかよ、とか思いながら椅子に座った。
で、先生が言った言葉が、ずっと引っかかってる。
先生はプリントを出して、こう言った。
「タケウチくんの場合、チャレンジ校はここ、実力相応校はここ、安全校はここだね」
チャレンジ校。実力相応校。安全校。
3つの言葉が並んでて、一瞬かっこよく聞こえた。なんかシステマチックっていうか、ちゃんと分析されてる感じがした。
でも家に帰ってから気づいた。これ、翻訳すると全然違う。
チャレンジ校=無理
実力相応校=ギリギリ
安全校=余裕
なんで「無理」「ギリギリ」「余裕」って言わないんだよ。
「チャレンジ校」って言われると、なんか夢がある気がするじゃん。挑戦。可能性。頑張れば届くかも、みたいな。でも実際は「今の成績じゃ無理」って意味だろ。
「無理」って言われたほうが正直だし、対策も立てやすい。なのにわざわざ包む。
面談の最後に、先生がこう言った。
「第一志望に全力で向かってください」
いい言葉だと思った。5秒くらいは。
でもその直後に、
「ただ、安全校も必ず受けてくださいね」
……矛盾してない?
「全力で」と「保険かけろ」を同時に言ってる。全力ってのは退路を断つことじゃないのか。保険かけた時点で全力じゃないだろ。
いや、わかるよ。現実的にはそうするしかないってのは。でもさ、だったら最初から「全力で」なんて言うなよ。「第一志望を目指しつつ現実的な選択肢も確保してください」って言えよ。長いけど正直じゃん。
「全力で」のあとに「安全校も」をつけるのは、かっこいいこと言いたいけど責任は取りたくないってことだろ。
いつものようにソノダさんにLINEした。「受験の言葉って暗号じゃないですか」って。
ソノダさんの返信。
「わかる! 私もそういうの気になるタイプ。ていうかそれ、私の友達のカワセさんの専門だよ。進路指導の言葉の研究してるの」
進路指導の言葉の研究。そんな仕事あるのか。大人の世界、意味わかんない。
でもちょっとだけ思った。俺が引っかかってること、大人も引っかかってるんだな。
「チャレンジ校」って言い方がおかしいって気づいてるのは俺だけじゃなくて、ちゃんとそれを研究してる大人がいる。なんかそれは、少しだけ安心した。
そもそも「安全校」って言葉がムカつく。
安全。セーフティネット。滑り止め。
その学校に通ってる人たちは、誰かの「安全」なのか? 誰かの「滑り止め」なのか?
俺が「安全校」って呼んでる学校にも、そこを第一志望にしてる人がいるはずだ。その人にとっては「チャレンジ校」かもしれない。同じ学校なのに、人によって呼び名が変わる。
学校の価値は変わってないのに、見る側の都合で「チャレンジ」になったり「安全」になったりする。
……それってなんか、失礼じゃないか。
昨日、部活の後に友達のハヤシに聞かれた。
「タケウチ、どこ受けるの?」
俺は答えた。「〇〇高校かな」。
本当は第二志望だった。
第一志望は言わなかった。落ちたとき恥ずかしいから。もし受かったら「実は本命だったんだよね」って言えばいいし、落ちたら誰も知らないからノーダメージ。
……あれ。
これ、俺も暗号使ってるじゃん。
「〇〇高校かな」の「かな」は、「本命じゃないですよアピール」の暗号。傷つかないための保険。先生の「チャレンジ校」と同じで、本当のことを言わないための言い換え。
先生の暗号=「無理」を「チャレンジ」に変換
俺の暗号=「本命」を「かな」で隠す
「安全校」って言うな、とか偉そうに書いたけど、俺も同じことやってた。
傷つくのが怖くて、本当のことを言い換えてた。先生を責める資格なんかなかった。
……でもやっぱり「安全校」って言い方は嫌だ。それは変わらない。自分がやってることと、嫌だと思うことは、別の話だ。たぶん。