「あなたのためを思って」
——最強のカードについて考えた話

タケウチソウタ

母親と喧嘩した。いや、喧嘩っていうか、一方的にやられた。

いつものやつだ。あの言葉が出た。

「あなたのためを思って言ってるの」

出た。最強カード。

全部「あなたのため」

最近のやりとりを振り返ってみる。

「部活、そろそろ引退したら? 受験もあるし。あなたのためを思って言ってるのよ」

「塾、週3にしたら? あなたのためを思って言ってるの」

「スマホ見すぎじゃない? あなたのためを思って——」

部活。塾。スマホ。全部違う話題。でも語尾が全部同じ。

部活やめろ →「あなたのため」
塾行け →「あなたのため」
スマホ減らせ →「あなたのため」
全部に装着可能な万能フレーズ。

「あなたのため」をつけると、何を言っても善意になる。注意も、干渉も、命令も、全部「あなたのため」をくっつけた瞬間に、善意のアドバイスに変わる

反論できない構造

問題はここだ。

「あなたのため」に反論しようとすると、こうなる。

俺「別に部活続けたいんだけど」

母「あなたのためを思って言ってるのに、なんでわかんないの」

……反論が「善意を拒否した人」になる

こっちは部活の話をしたいのに、いつの間にか「母親の善意を無視するひどい息子」みたいな構図になってる。話の内容じゃなくて、態度の問題にすり替わってる。

「あなたのため」は議論の中身を無効化する。だって反論したら「せっかく心配してるのに」だし。受け入れたら母親の勝ちだし。どっちに転んでもこっちが不利

UNOで言ったらワイルドドロー4みたいなもんだ。出されたら基本負ける。

ソノダさんに聞いてみた

ソノダさんにLINEした。「親の『あなたのため』がうざいんですけど」って。ストレートに。

ソノダさんの返信。ちょっと長かった。

「うーん、それはね。『あなたのため』は、たぶん『私が心配だから』の着替えだと思うよ」

着替え?

「お母さんは心配してるの。受験のこと、将来のこと。でも『私が心配だから部活やめて』って言うと、自分の都合で子どもを縛ってるみたいに聞こえるでしょ。だから主語を『私』から『あなた』に着替えさせるの。『私が心配だから』を『あなたのためを思って』に変換してる」

あー。なるほど。

「私が心配」と「あなたのため」。言ってることの中身は同じ。でも主語が違う。「私が」だと自分の感情。「あなたの」だと相手への配慮。同じ気持ちを、服だけ着替えさせてる。

「でもね、どっちも本当だと思うよ。お母さんは心配してるし、あなたのことを思ってもいる。嘘じゃないの。ただ、言い方を選んでるだけ」

なんかソノダさんらしい返事だなと思った。白黒つけないっていうか。「うざい」って相談したのに、「どっちも本当だよ」って返ってくる。

正直、もうちょっと「親がおかしい」って言ってほしかった。でも、たぶんソノダさんの言うことのほうが正しい。たぶん。悔しいけど。

最強カードの裏側

ソノダさんの「着替え」って話、帰り道にずっと考えてた。

母親は「私が心配」って言えばいいのに、なんで「あなたのため」に着替えさせるんだろう。

たぶん——「私が心配」だと、弱く見えるからだ。

心配してる、不安だ、怖い。そういう自分の感情をそのまま出すのは、なんか負けた気がするんだと思う。親としての立場が崩れるっていうか。だから「あなたのため」って言い換えて、アドバイスする側のポジションを確保する。

「私が心配」は弱い。「あなたのため」は強い。同じ中身なのに、着替えただけで立場が逆転する。

……なんか、それはそれで、ちょっとだけ母親がかわいそうに思えた。心配してるって素直に言えない。「あなたのため」っていう強い言葉に着替えないと、親としての不安を表現できない。

いや、でもうざいもんはうざい。それも本当。

同じカードを切ってた

その週末。

部活の同期のナカジマが、「バスケ辞めようかな」って言い出した。

ナカジマは俺と同じ補欠だ。試合に出られない。練習きつい。勉強との両立がしんどい。やめたい気持ちはわかる。俺だって何回も思ったし。

でも俺、反射的に言ってた。

お前のためを思って言うけど、辞めないほうがいいよ

……。

出た。母親と同じカード。

しかも俺が言った理由、冷静に考えると「ナカジマのため」じゃなかった。ナカジマが辞めたら補欠が俺一人になる。練習で組む相手がいなくなる。俺が困るから引き留めた。

「俺が困るから辞めないで」って言えばよかった。正直に。でもそれは自分勝手に聞こえるから、「お前のため」に着替えさせた。

母親=「私が心配」→「あなたのため」に着替え
=「俺が困る」→「お前のため」に着替え
構造=完全に同じ

母親と同じだった。まじで同じだった。

ソノダさんに報告しようかと思ったけど、やめた。「ほらね」って言われるのが目に見えてたから。

……ナカジマは結局辞めなかった。「お前のため」が効いたのか、自分で考え直したのかはわからない。でも俺は知ってる。あれは「お前のため」じゃなくて「俺のため」だったって。

今度母親に「あなたのため」って言われたら、ちょっとだけ聞き方が変わる気がする。ちょっとだけ。うざいのは変わらないけど。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。タケウチソウタは架空の人物です。