来ない土曜(第二稿)
コメダ、二月の第二土曜、朝八時(ベテラン篇)

窓際の奥。ワタナベ(六十五)が新聞を広げている。向かいの席は空いている。

八時二十分

ワタナベ、腕時計を見る。店員が水を二つ置いていく。ワタナベは一つを向かいへ寄せる。ドアの鐘が鳴る。紺のジャージの高校生が入ってきて、通路を挟んだ席に座る。ワタナベに気づく。

高校生あ。どうも

ワタナベおはよう

高校生今日、一人っすか

ワタナベ待ってる

高校生、小倉トーストを頼む。ワタナベは携帯を出して、電話をかける。耳に当てて、待つ。切る。もう一度かける。切る。

高校生出ないんすか

ワタナベ家の電話にかけてる。あいつは携帯を持って出ない

高校生LINEは

ワタナベやってない

高校生家、行けば

ワタナベ行ったことがない。年賀状の住所しか知らん

合宿の紙

ワタナベ部活か、今日も

高校生十時から。……こないだ、合宿の紙の保護者のとこ、自分で判子押したんすよ。判子屋で竹内の買って

ワタナベばれたか

高校生ばれた。母さんに。竹の字が、うちのと違うって

ワタナベ怒られたろう

高校生怒られた。でも、怒ったあと、母さんが自分の判子、横に押してくれた。だから今、竹内が二個並んでる

ワタナベそれで通ったか

高校生通った。顧問、何も言わなかった

ワタナベ俺は、会社で課長の判を押してた。課長の机の引き出しから出して

高校生やば

ワタナベ課長に頼まれてな。忙しいから押しといてくれ、と

高校生ばれなかったんすか

ワタナベばれるも何も、課長の判だ

小倉トーストが来る。高校生、大きな口で食べる。あんこが指につく。ワタナベは水を一口飲む。向かいの水には、誰も手をつけていない。

坂の下

高校生あ、そういえば、さっき坂の下でさ、判子屋にいた人がいた

ワタナベ判子屋

高校生俺が竹内買ったとき、奥にいた人。ずっとこっち見てたから覚えてる

ワタナベ坂の下の、どこ

高校生薬局の前。まだ閉まってた。シャッターの前に立ってた

ワタナベ……

高校生自転車で通り過ぎただけっす。知ってる人?

ワタナベ薬局は、何時に開く

高校生知らない。九時とか?

ワタナベ、腕時計を見る。八時四十分。

九時

高校生、時計を見て立ち上がる。

高校生練習なんで。失礼します

ワタナベ頑張って

高校生、出ていく。鐘が鳴る。店員が来る。

店員お連れ様、お水お下げしましょうか

ワタナベ……いや

ワタナベ、伝票を取る。新聞を畳まずに席に置いたまま、上着を着る。

← 第一稿
辛口レビュー
→ 対になる一篇(第二稿):付属品として(新人篇)
← シリーズ目次に戻る

このページの記事はAI(Claude)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。登場人物・場面はフィクションです。