研究室4人の批判を受けて書き直した第二稿。時系列の自己矛盾を修正、ヘッドレスト段を削除、客像を3組に削減、業界用語を簡素化、医師セリフを削除。
加藤マサオ、五十三歳。タクシー運転手、勤続十五年。
営業所を出る。今日の車は代車だ。
営業所は東京都内、私鉄沿線。乗務員はおおむね五十代と六十代。三十代もいるが、たまに見るくらいだ。
最初の二時間は、駅前のロータリーで待つ。火曜の夜は、月曜の終電後の空気がまだ少し残っている。乗ってくる客の顔が、まだ仕事の色をしている。
上着の襟を立てた男を駅前で乗せる。家まで、と男は言った。住所は、二駅向こうの住宅街。会話なし。男はカードで払って、降りた。
男の家から、流しに戻る。幹線道路を西に走る。客は乗らない。火曜の真夜中はそんなものだ。
最後の電車を逃した、たぶん同僚同士の若い男女が、駅前のロータリーで手を上げた。目的地は、思いのほか近い。三駅向こうの十字路で降りるという。
二人は乗り込んでから、降りるまで、一言も話さなかった。男のほうは窓の外を見ていて、女のほうはスマホをずっと見ていた。十字路で女が「ここで」と言って、二人は降りた。男が支払った。
俺は、二人が同じ方向に歩いていくのか、別の方向に分かれるのか、サイドミラーで確認しないことにしている。
駅前タクシー乗り場に戻ると、もう三台しか並んでいない。四番目に並ぶ。ここから一時間は、流しに出ても客が乗らないので、列で待つことにしている。
エンジンをかけたまま、シートに深く腰を沈める。膝が痛い。整形外科に何度か通ったが、結局、痛み止めとサポーターを使い続けている。
ラジオは、聞かない。先輩の運転手はラジオを点けっぱなしにする人が多いが、俺は、無音のほうが楽だ。
一時間で一人乗せた。四十代男性、酒臭い、寝てしまった、起こすのに二回声をかけた。
02:30、列を抜ける。営業所に戻る前に、コンビニに寄る。
ここの店に、火曜と木曜は寄る。水曜は別のコンビニ、もう一駅手前の店だ。
店の前の路肩に、ハザードを点けて停める。
入っていく。レジには、いつもの三十くらいの男が立っている。たぶん常連だが、お互い、顔を覚えているような覚えていないような距離を保っている。
缶コーヒーの棚へ。微糖の、いつもの。レジへ。
「ありがとうございます。」
「あ、どうも。」
タクシーに戻る。発車する。
幹線道路を東へ走る。営業所に戻る。
営業所着。日報を確認する。デジタコのデータを提出する。今日の売上は二万八千円。
着替えて、自転車で帰る。家まで二十分。妻は寝ている。大学生の娘も、寝ている。
冷蔵庫から麦茶を出して、立ったまま飲む。シャワーを浴びて、ベッドに横になる。明日は休みだ。娘の卒業式はまだ先だが、写真館で前撮りの予定が来週入っている。それまでに、髪を切ろう、と思いながら、目を閉じる。
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本作は「夜勤の人たち」シリーズ #2・第二稿。第一稿への研究室4人の批判(時系列の自己矛盾、客像のステレオタイプ列、後部座席のヘッドレスト描写の決め画、結語のキメ「それで、たぶん、行かない」、医師セリフの小説的作為、業界用語の冒頭密度、「それでいい/それだけ」の文体癖)を受けて、以下を改訂:(1) 03:30→02:30 に修正し時系列の整合を取る、(2) 客像を4組から3組に削減し2人目を「最後の電車を逃した若い男女」に差し替え、(3) 後部座席段(ヘッドレストの影)を完全削除、(4) 結語のキメを「娘の前撮り、髪を切ろう」の生活的な未来に変更、(5) 医師セリフを「痛み止めとサポーター」の事実描写に、(6) R246を「幹線道路」に、(7) 出庫点呼・運行管理者・車両キーを簡素化、(8) 「水曜は別の店、理由は説明できない」の説明を削除、(9) 日報を「日報の確認とデジタコの提出」に、(10) 代車の経緯(ぶつけられた)を削除、(11) 「それでいい」「それだけ」の癖を削除。