除籍印を押す朝(第二稿)
本にも終わりがある、と司書は知っている

ヤマギシサオリ(34歳・市立図書館司書12年)

除籍の作業は、開館前の事務室でする。ブックトラックを引くと、朝いちばんの車輪が軋む。蛍光灯はまだ温まりきらず、端のほうで一本ちらついている。机に積まれた本の背を、私は一冊ずつ起こしていく。利用者のいない時間。受け取るのではなく、外す側に回る一時間だ。

籍を除く、と書いて除籍と読む。人を戸籍から外すときと、本を台帳から消すときに、同じ二文字を使う。蔵書印の朱の上に、もう一つ朱を重ねる。ゴム印の縁は規格で決まっていて、いつも同じ大きさで「除籍」が刷られる。それを押して初めて、その本は図書館の本ではなくなる。

その朝の山に、文庫が一冊あった。最終貸出日のスタンプは、十三年前で止まっていた。それきり、奥付の数字も動いていない。手に取って、開く。背の糊が一度も折られていないので、ぱきっと音がした。固い。ページの白さに指の跡がない。十三年、誰の手も、この紙を曲げなかった。

隣に、絵本があった。『はらぺこあおむし』。あおむしが食べ物を貫いていく、あの穴のあいたページだけ、角が黒い。何百という指が同じ穴に通り、紙の縁を脂で曇らせている。ブッカーフィルムはその一葉だけ波打って浮いていた。台帳の貸出回数は、三桁。百を超えたあたりから、私は数えるのをやめる癖がついている。

無傷の文庫と、穴のページだけ黒い絵本。どちらも、今日で外す。理由の欄に書くのは、片方が「利用減」、片方が「破損」。台帳の上では、二行の違いでしかない。

誰が借りたのかは、見ない。最終貸出日のスタンプは見えても、その日カウンターへ来た手のことは調べない。十三年前のその一回が、最初で最後だったのか、私は知らないままにしておく。

蔵書バーコードに、定規を当てて斜線を一本引く。システムの登録を抹消する。「抹消しますか」と画面が訊くので、はい、を押す。最後にゴム印。朱肉に当てて、台帳に、本の扉に、規格どおりの「除籍」を落とす。文庫のときは、すぐ押せた。絵本のときは、朱肉に当てた印を、一度浮かせて、また下ろした。それだけだ。手は本のことしか考えていない。

月に一度、外した本は長机に並ぶ。「ご自由にお持ちください」の札が貼られたリサイクル市だ。開館前にこっそり見にいくと、十三年動かなかった文庫が、もう半分ほど減っている。誰かの鞄に、固いままの背が一冊、収まっていく。籍は外れても、紙は折られにいく。あの絵本は、たぶん早くに無くなるだろう。穴のあいたページごと、誰かの子どもがまた指を通す。

——補記:これは「除籍印を押す朝」の第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。