らくでは、ないです
コワーキングスペース、隣の席

五月の平日、昼下がり。駅前のコワーキングスペースの、ドリップ式のコーヒーマシンの前。会社を辞めて六年目の四十代のライター(A)と、出張中で持ち場を離れている三十代の会社員(B)が、隣同士の席で半日ぶんの作業をしていた。マシンが一台しかなくて、Bが先に立って、Aがあとから並んだ。

コーヒーマシンの順番

マシンの抽出音。Bがカップを持って待っている。Aが少し離れて立つ。

Bあ、すいません、もう少しで、終わります

Aいえ、ぜんぜん、お先で

Bこのマシン、遅いですよね

A遅いです。一杯、二分くらい

Bほんとですか

A計ったことがあります、暇で

B暇で

A原稿が、進まないときに

小さな笑い。抽出が止まる。Bがカップを取る。

Bはい、どうぞ

Aすみません

BWi-Fi、さっきから、落ちません?

A落ちます。一日に三回くらい

B三回

A三時の、いま頃、混むので、特に

Bそうなんですか

Aいつも、ここですか

Bいえ、出張で。会社が、東京で

Aあ、出張で、ここで

Bはい、最近、出張規定が変わって、ホテルじゃなくて、こういう場所でも、いいことになって

Aふうん

Bそのほうが、安いから、と

A会社の、そういう判断、早くなりましたね

B早く、なりました

副業のほう

Aが自分のカップにマシンをセットする。抽出が始まる。二人とも、立ったまま、少し待つ。

Bあの、立ち入ったこと、聞いていいですか

Aどうぞ

Bこういうところで、お仕事されてる方って、フリーで

Aそうです

Bずっと、ですか

A六年目、です。前は、会社に

Bあ、もとは、会社員

Aもとは、会社員です

B聞いていいか、わからないんですけど

A聞いてみてください

B……らくですか

短い間。Aは、すぐには答えない。マシンの音だけが続く。

Aらくでは、ないです

Bあ、すみません、ぶしつけで

Aいえ、よく聞かれます

Bそうですか

Aでも、不平を言うと、嘘になる気もして

B

A自分で、選んだので

Bあー

A選んだことを、らく、と言うのは、違うし、つらい、と言うのも、違う

Bむずかしいですね

Aむずかしい、んです、そこが

抽出が止まる。Aがカップを取る。

B実は、僕、副業のほう、考えてて

A副業

B会社、解禁になったので

A増えましたね、解禁

B少しずつ、慣らして、いずれ、こっち側に、行けたら、と

Aこっち側

Bすみません、変な言い方

Aいえ、わかります

AIに直してもらう

二人とも、自分の席のほうに、なんとなく戻りかけて、結局、マシンの脇のカウンターでもう少し話す。窓の外、街路樹の若葉が光っている。

Bライターさん、というのは

A記事を、書く仕事です。会社の紹介とか、商品の説明とか

Bそういう仕事って、いまは

A減ってます、はっきり

BAIで

AAIで、です。半分くらいは、もう、AIで足りる

B半分

A残りの半分を、書く人が、たくさん、奪い合ってる

Bそうですか

A私も、書いたあとに、AIに直してもらうことが、増えました

B使う側でも、ある

A使わないと、間に合わないので

Bうちも、翻訳とか、要約とか、ぜんぶ

A精度、上がりましたよね

B上がりました。会議の議事録、もう、人がやらない

Aそっちのほうが、私の仕事より、先に、きれいに置き換わってる

Bあ、たしかに

短い間。Bが、カップに口をつけて、少し考える。

B転職、みんな、するんですよ、最近

A退職代行、でしたっけ

B使った同僚、二人

A二人

B朝、来なくなって、夕方、サービスから連絡

Aそういう、辞め方も

Bあります

A私のときは、まだ、そういうのは、なかったので

B自分で

A自分で、上司に。一か月、もめました

B一か月

Aもう、思い出さないように、してます

小さな笑い。

またコーヒーマシンで

Bここ、来月から、月の利用料、上がるらしいですね

A上がります、二割

B二割

A家でも、書けるんですけどね、ほんとは

B家、だめですか

Aだめでは、ないです。だめでは、ないんですけど

Bだれにも、会わない

Aそう。だれにも、会わない、まま、一日が、終わる

Bそれで、ここに

Aそれで、ここに。コーヒーマシンの順番を、待つくらいでも

B順番を、待つ

A待つ相手が、いるだけで、ちがう

短い間。Bが、カップの底を見る。

B……副業、はじめたら、ここ、来てみます

Aいいと思いますよ。Wi-Fi、不安定ですけど

B三回、落ちる

A三回、落ちます

B覚えておきます

Bが、自分の席のほうへ、半歩、戻る。Aも、半歩、戻る。

A出張、お気をつけて

Bあ、ありがとうございます。お仕事、お気をつけて

Aはい

B……またコーヒーマシンで

Aまたコーヒーマシンで

二人とも、自分の席に戻る。隣同士なので、椅子の背中が、すぐそこにある。それぞれ、画面に向き直る。Wi-Fi のアイコンが、Bの画面の右上で、一度、点滅する。Aは、カップを口元で止めたまま、少しのあいだ、窓の外を見ている。五月の若葉が、風で、軽く揺れている。連絡先は、交換しない。

← 関連:お互いさま(深夜のタクシー、運転手と乗客——一回限りの他人同士)
← 関連:お弁当、温めますか(深夜のコンビニ、店員と常連客)
← 関連:『ケイさん』と呼ばれる(編集された生活、一人称独白)
← 関連:会話劇五景——シリーズの裏の狙い
← シリーズ目次に戻る

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。登場人物・場面はフィクションです。