男性を魅力的に書けない
ある書き手の備忘——考察と、打開のために

書き手の備忘

会話劇シリーズを書いてきて、ひとつ気づいたことがある。男性キャラクターが、女性キャラクターほどには、立ち上がってこない。書けば書くほど、その差が見えてくる。本ページは、その悩みを自分のために整理する、備忘のための覚え書きである。

ジェンダー論ではなく、クラフトの問題として扱う。書き手は誰でもよい。読み手も誰でもよい。言葉が立ち上がるかどうか、というだけの問題として、考える。

悩みの輪郭

シリーズの中で、はっきり男性として書いたキャラクターは、それほど多くない。運転手(『お互いさま』)、ももの飼い主(『葉桜のあとで』)、母の子(『持ってきな』、性別は曖昧だが東京で働く中年として男性的に読める)、匿名希望(『昭和の日に働いた』、教員、性別曖昧)、タケウチソウタ(高校生、男子)、ワタナベ(高齢の男性、別シリーズ)。

このうち、書き手の手応えとして「立った」と感じるのは、ソウタとワタナベの二人だけである。運転手やももの飼い主は、職業(タクシー、工務店)の手触りで支えられて場面に立っているが、人物としての魅力——もう一度読みたい、その人の続きを知りたい、という引力——は弱い。

女性キャラクター(ナミ、ケイ、ぎん、母、サカモト、アヤ、客)はどうか。これらの多くは、書き手の体感として、「立った」感覚が比較的早く訪れる。ケイは独白まで書けた。サカモトとアヤは性格の差を呼称だけで表現できた。母は方言と「持ってきな」で生きた。

差は、何か。

なぜ書けないか——六つの仮説

自分の書き癖を、いくつかの角度から見てみる。

仮説1:ステレオタイプ回避が、逆に人物を薄くしている

「カッコいい男性」「寡黙な男性」「優しい男性」は、すぐに陳腐になる。それを避けようとすると、男性キャラから「目立つ特徴」を全部削いでしまう。結果、無味乾燥な記号が残る。運転手とももの飼い主は、まさにこの罠にかかっている。

仮説2:「男性魅力」の語彙が、書き手の中でまだ更新されていない

強い、決断する、リーダーシップ、ユーモアで場を持っていく——これらの古い男性魅力コードを、書き手は意識的に使わない。しかし、それに代わる新しい男性魅力の語彙は、まだ書き手の中に揃っていない。「迷う男性」「弱さを見せる男性」を書こうとすると、いきなり「情けない」に転落するリスクがある。

仮説3:男性の身体性の細部が、書き手の経験で薄い

女性のキャラクターを書くとき、書き手は、その人の手の動き、髪の位置、声のかすかな変化を、自分の経験から借りてくることができる。男性のキャラクターを書くとき、その借り元が薄い。ヒゲの感触、肩の張り方、足音の重さ——これらの細部に、書き手は確信を持てない。確信のない描写は、固くなる。

仮説4:男性同士の距離感が、書き手の手元に乏しい

女性二人の会話(ナミ×ケイ、サカモト×アヤ)はリズムが取れる。男性二人の会話は、「お互い様ですね」のような社会的距離感の場面では書けるが、感情を交換する場面、優しさを差し出す場面が、書き手の中で自然に降りてこない。男性二人がドーナツを半分こにする場面を、書き手はまだ書いたことがない。

仮説5:男性を観察される側にする勇気が足りない

シリーズの中で、男性キャラはたいてい「観察する側」「機能する側」にいる。運転手は車を走らせ、工務店主は仕事を語り、教員は仕事に向かう。誰かに見られて、見られていることに気づき、それを引き受ける、という弱さの場面に、男性キャラを置けていない。ケイの『ケイさん』のように、「観察される側」に独白で立たせることが、女性/性別曖昧キャラではできた。男性で同じことをやる勇気が、まだない。

仮説6:性別を曖昧にして逃げている

シリーズの多くのキャラクターは、性別を明示していない(ナミ、ケイ、運転手の乗客、客、子、匿名希望)。これは「読者の自由な投影に開く」という意図でやっているが、書き手の側から見ると、「男性として確定して書ききる」ことから逃げている、という側面もある。曖昧にしている限り、男性として立ち上げることは原理的にできない。

打開のために——七つの試み

仮説に対応する形で、自分への提案を並べる。

試み1:男性キャラに「ちょっと格好悪い」場面を必ず一回入れる

傘を忘れる、駅で迷う、ボタンが取れる、息子の名前を一瞬間違える、自販機でコインを落とす。こうした小さな格好悪さが、男性キャラから「機能」を剥がして「人」を残す。重要なのは、それを「ダサい」と書き手が裁かないことである。ダサさを面白がる視線は、男性キャラを下に置いてしまう。ただ、起こったことを記述する。

試み2:男性の身体性を、抑制ではなく集中で書く

身体描写を全部削るのではなく、一つの細部に集中する。たとえば手だけを書く。手の置き方、手の使い方、手のしわ。それ以外を書かない。集中は、確信のなさを覆う。書き手が知っている範囲だけで、人物を立たせる。

試み3:男性二人を、機能ではなく時間で並べる

男性二人の会話劇を書くなら、彼らが何かを共有してきた時間の長さを、まず描く。職場の同僚二十年、釣り仲間十五年、町内会三年。時間の堆積が、感情の交換を許す。時間が見えない男性二人は、ただ並んでいるだけになる。

試み4:男性を観察される側に置く独白を書く

『ケイさん』を、男性版で書いてみる。誰かに「○○さん」と呼ばれることに気づいた中年の男性。または、若い男性。または、高齢の男性。観察される側に置くと、その人の自己懐疑が見えてくる。自己懐疑は、男性キャラの「弱さの魅力」を翻訳する装置になる。

試み5:男性の語尾と間を、注意深く聞く

男性の話す言葉は、しばしば、語尾が短く、間が長く、断定が多い。これは個人差ではなく、社会的に学習されたリズムである。書き手は、男性キャラの台詞を書くときに、自分の中の女性的リズム(柔らかい語尾、説明的な接続)が漏れていないか、台詞ごとに点検する必要がある。リズムが正しく取れていれば、台詞だけでも男性が立つ。

試み6:男性の自己懐疑を、書き手が裁かない

男性キャラが「迷う」「戸惑う」「言葉に詰まる」場面を、書き手は無意識に「ダメな男」と読みたくなる癖がある。この癖を、書き手の側で点検し、抑える。迷うことは、ダメではない。戸惑うことは、ダメではない。書き手がそれを承認したときに、男性キャラの迷いは魅力に翻訳される。

試み7:性別を曖昧にする逃げを、ときどき封じる

すべてのキャラクターを曖昧にしない。一作だけでも、男性として確定して書ききる練習をする。確定すると失敗する。失敗した中から、次の作のための語彙が一行ずつ拾える。曖昧にし続ける限り、その語彙は永遠に揃わない。

シリーズの自己点検

既存の男性キャラを、いま書き直すなら、どこを変えるか。

運転手(『お互いさま』、60代)——「同期の一人がね、岐阜の実家に戻りました。お父さんの具合が悪くて」と語るとき、彼は何を思っているか。書き手は彼の機能(運転手の語り)に頼って、彼の内面を書き切れなかった。書き直すなら、彼が信号待ちで一瞬黙る場面を一回入れる。「同期の一人」と言ったあとの数秒の沈黙を、ステージで丁寧に拾う。

ももの飼い主(『葉桜のあとで』、50代)——彼は「家じまい」を語る側に置かれているが、彼自身の家のこと、家族のこと、自分の老いのことは、ほとんど描かれていない。書き直すなら、ぎんの飼い主の質問に対して、彼が一回だけ自分のことを言いかけてやめる場面を入れる。やめる場所が、人物を立たせる。

子(『持ってきな』、40代)——「重いって」「いや、重い」のリズムは取れている。だが、彼/彼女が東京で何を書く仕事をしているか、誰と暮らしているか、そういう輪郭が一切ない。曖昧にしすぎたかもしれない。次に書くなら、玄関を出る前にスマホを見る一瞬を入れる。スマホに何が映っているかで、人物が立つ。

匿名希望(『昭和の日に働いた』、教員)——おそらくシリーズで最も男性として立っているキャラクター。性別は明示していないが、口調と判断のリズムが、五十代男性教員のリズムを学習している。なぜ立っているか。理由はおそらく、彼が一日のあちこちで「ちょっと格好悪い」場面を持っているからである。カレンダーを見て遅れて気づく、メールに「明日でいい」と判断する、ビンゴで手を挙げて笑う。彼の人物像は、機能ではなく、小さな格好悪さの積み重ねで成立している。

タケウチソウタ(高校2年)——明るい、好奇心、ミーハー、推し活。属性は揃っている。だが、彼が「ケイさんに憧れている自覚」を持つ瞬間を、書き手はまだ書いていない。彼を観察される側として独白に置くなら、「自分がサカモトの気持ちに気づかなかったこと」を、後日、彼自身がぼんやり思い出す場面が、人物を一段深める。

次に試す一手

具体的に、次の一作で試したいこと。

書いたあとに、自分でこのページに戻ってきて、どこができてどこができなかったかを点検する。点検は、評価ではなく、次のための語彙拾いである。

男性を魅力的に書くとは、男性に魅力を付与することではない。男性を、人として、書き手の偏見の手前で、もう一度見直すことだ、たぶん。それができれば、女性キャラがそうであるように、男性キャラも自然に立ち上がる、はずである。

はず、と書いたのは、まだ実証していないからである。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。書き手のメタな悩みを、自分のために整理した備忘である。