油揚げの、午後(第二稿)
朝に豆腐を作り、午後に油を熱す店のこと

エグチケンタロウ(50歳・豆腐店三代目)

豆腐屋の午後は、油の温まる匂いから始まる。朝に作った豆腐がどれだけ水槽に残っているかを見て、その日に何枚揚げるかを決める。よく出た日は少なく、出ない日は多く。残った豆腐を油揚げに回すのが、うちの在庫管理だ。仕入れを減らすのではなく、残りを別の品に変えて売る。これを発明と呼ぶのは大げさだが、捨てない算段としては、よくできている。

水槽から豆腐を上げ、布で水気を切る。水を抜かずに油に入れると、油がはねて泡が暴れる。朝の水を切ってから、午後の油に渡す。この一手で、店の朝と午後はつながっている。

油揚げは、二度揚げる。一度目は百二十度ほどの低い油。ここで生地が浮き、鍋の中で泳ぎ、ふくれていく。泡の音が、ばちばちから、すうっと細くなる。その音で、膨らみきったのを引き上げる。早く上げれば中が生で、冷めると縮む。遅らせれば固く締まって、色が濃くなりすぎる。だから音で引く。二度目は百九十度の高い油。低温で膨らませ、高温で固める。膨らんだ袋を、もう逃がさないように留める。

菜種油は、揚げるたびに減る。減ったぶんを継ぎ足すが、新しい油だけでは色がのらない。三日揚げた油に新しい油を足したあたりが、いちばんいい色を出す。揚げかすは午後の終わりに一度漉す。漉さずに置くと、翌日の油が焦げ臭くなる。月に二度、総入れ替えをする。父は「油も水と同じだ、替える手のぶんを売っている」と言った。水槽の水を替えるのも、揚げ油を漉すのも、同じ一つの手だ。

油揚げは、豆腐より二日長くもつ。値も、一枚で五十円ほど上がる。今日のうちに売り切らねばならない豆腐が、油をくぐると、二日待てる品になり、しかも高く売れる。先人は売れ残りを捨てる代わりに、これを思いついた。継いでから、台所の算段が技術の顔をして残っているのだと知った。

夕方、油の匂いが表通りに届くころ、油揚げを買いに来る常連がいる。私は枚数で、その夜を当てる。二枚なら味噌汁。一枚だけの人は、焼いて生姜醤油で食べる。五枚六枚は、いなりだ。電話で「いなり用に二十枚」と入る日は、その家に明日、人が集まる。聞かなくても、枚数がだいたい献立を言っている。前作で、水の透明さで店を当てる目のことを書いた。あれと同じ目で、今度は枚数を読んでいるだけだ。

今日も午後、油が百二十度に上がるのを待って、私は最初の一枚を入れる。泡の音が細くなったところで引き、高い油に移して留める。夕方には匂いが表に出て、誰かが何枚かを買いに来る。私はその枚数で、その人の夜を思う。父はもういない。私は、油の音を聞いている。

← 第一稿
辛口レビュー
← シリーズ目次に戻る

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。