葉桜のあとで
連休明けの早朝、犬連れの二人

連休明けの月曜、五月の早朝。川沿いの遊歩道、葉桜のトンネル。月に数回、犬の散歩で会うだけの二人。会えば、犬の名前で互いを呼ぶ。お互いの名前は、たぶん、まだ知らない。会話のラベルとして、犬の名前のほうを使う。

連れているのは、ぎん(白い柴犬、十二歳、シニア)と、もも(トイプードル、三歳)。

ぎんと、もも

川の音、自転車が遠くで鳴る音。葉のあいだから朝の光。二人、反対方向から歩いてきて立ち止まる。

ぎんあら、ももちゃん、おはよう

ももぎん、おはよう

ぎん連休、お疲れさまでした

もも連休っていうか、ずっと現場でして

ぎんあら、お忙しい

ももいや、忙しくはないんですけど、そういう仕事でして

犬どうしが鼻先を寄せ合う。ぎんがゆっくり、ももが小刻みに。

ぎん桜、もう、終わってましたね

もも早かったですね、今年も

ぎん四月の頭には、もう散ってた

もも三月のあいだに咲いて、四月に散る、ね

ぎん私が子供の頃は、入学式の写真に、桜が写ってたんですよ

ももそうですね

ぎん今は写らない

ももうちの娘の入学式、もう、葉桜でしたから

ぎんあらまあ

もも少しずつ早くなって、ある年から、戻らなくなった

ぎん戻らなく

もも戻らなくなりますね、いったん早くなると

短い間。川の流れの音だけ。

ぎん葉桜は、葉桜で、いいんですけどね

もも緑が、きれいですもんね

ぎんそう。終わったあとの色が、好きだったかも、もともと

もも分かる気がします

解体現場

ぎんあちらの、川向こうの古い家

ももああ、はい

ぎん解体されてましたね

ももあれ、実は、うちの工務店で

ぎんえっ、そうだったの

もも相続、何年も決まらなくて、先月ようやく、ご兄弟で話がついたそうで

ぎん大変だったでしょうね

ももうちの仕事、最近、解体ばかりです

ぎん建てるよりも

もも建てる仕事は、少なくなりました

ぎん家じまい、っていうんですか、そういうの

もも家じまい、ですね。最近よく、その言葉、聞きますね

ぎんうちもね、夫が亡くなってから、二階を使ってないんです

ももそうですか

ぎん使ってない部屋って、ふしぎなもんで、空気が、止まる

もも止まりますね、空気は

遠くで重機の音、低く。

ぎんニュースで、熊の話、見ました

ももああ、最近、よく

ぎん街にも下りてくるんですってね

ももうちの実家、岐阜の山のほうなんですけど、裏山に、痕跡があるそうで

ぎんあらまあ

もも空き家が増えると、人の気配が消える。気配が消えると、向こうも安心して、下りてくる、らしいです

ぎんつながってるんですね、いろいろ

ももたぶん、ぜんぶ、一つの話なんですよね

ぎん桜と、家と、熊と

ももそういうふうに、見えるときがあります

ぎん(犬)が、足元の落ち葉をひとつ、口で持ち上げる。

ぎんこら、ぎん、汚い

ももいいんじゃないですか、それくらい

ぎんそうですね

それじゃ、また

ももそうそう、お米

ぎん

もも高くなりましたね

ぎんなってますね

ももうち、家でカレー作るときに、ご飯の量で迷うようになりました

ぎんあらあら

ももぎんさんは、おひとりだから、お米

ぎん三キロずつ買ってます。前は五キロで買ってたんですけど

もも三キロ

ぎん夫がいた頃は、あっという間でしたけどね、五キロ

もも今は、長く持つ

ぎん長く持ちます。長く持ちすぎる、というか

短い間。風が出てきて、葉桜が、いっせいに音を立てる。

ぎんそろそろ、戻りますね。ぎんが、お腹空いた顔してる

ももええ、ももも、もう終わりたい顔してます

ぎんそれじゃ、また

ももまた

ぎんお互いさま、ですね、こういうのは

ももこういうのは、ですね

二人、それぞれ反対方向に歩いて行く。葉桜のトンネルが続く。風が少し強くなる。連休明けの月曜が、もう始まっている。

← 関連:お互いさま(深夜のタクシー、運転手と乗客/連休最終日の深夜)
← 関連:同じおにぎりを(大学生二人/連休最終日の昼)
← 関連:昭和の日に働いた(教員側/連休初日の朝)
← シリーズ目次に戻る

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。登場人物・場面はフィクションです。