二人になっても(v2)
進学塾アスターの、高橋瑞希(25歳)・書き直し

第二稿(第一稿研究室4人による建設的批判を経て書き直した版)

高橋瑞希。二十五歳。進学塾アスター、入社一ヶ月。前職は、別の中小規模の塾チェーン、新卒から三年。

スタッフは二十人。私で、女性が、二人目。佐藤紗英子先生が、十年いる、唯一の女性スタッフだった。私は、その「唯一」を、一段、外す側に、入った。

入社初日、所長が朝礼で言った。「これで、女性が、二人になりました」。佐藤さんは、ちょっと、笑った。私も、笑った。

「佐藤先生、お願いします」

入社一週間目。外線当番の私のデスクに、電話が転送された。

「あの、すみません、女性の先生、佐藤先生をお願いします」

「佐藤は、いま、授業中で。私、新しく入った高橋ですが」

「あ、そう。……佐藤先生、いつ、戻られますか?」

「四十分後です」

「では、また」

佐藤さんが戻ったので、伝えた。

「指名でした、母親、佐藤先生をって」

佐藤さんは、頷いた。「うん」

そのあと、私のデスクの前で、ちょっと、立ち止まって、こう言った。「私が辞めるまで、たぶん、こういう電話、瑞希ちゃんには、回ってこない」

言って、自分の席に戻った。

「女性陣の意見ね」

入社二週間目、教材会議。文化祭の出店、女子は受付、男子は売り子のドラフト。

私は、手を挙げた。「これ、性別で分けなくても、いいですよね」

所長が口を開く前に、中堅の男性講師が、「あー、女性陣の意見ね」と笑った。所長は、ちょっと、止まって、「あ……まあ、考えとくよ」と言った。止まった一瞬を、私は、見ていた。

会議のあと、佐藤さんが、私の席に来た。

「ありがとう」

「流された気がします」

「うん」

佐藤さんは、それ以上、言わなかった。

引き出しの、ナプキン

ある日の昼休み、佐藤さんが、私の机の引き出しを、ちょっと開けて、ナプキンを、入れていった。

「ここに、置いとく」

「あ、はい。塾の、備品じゃ……」

「私の」

「私も、買います」

「うん、ありがたい」

それだけ言って、佐藤さんは、自分の机に戻った。

私は、引き出しを、しばらく、見ていた。十年、佐藤さん一人で、ここに、ナプキンを入れ続けた。それを、ようやく、二倍、にした。

三年は、いるかな

家に帰る道で、考えた。

三年は、いるかな。

佐藤先生みたいに、十年は、たぶん、いられない。

けれど、すぐ辞めると、佐藤先生は、また、一人に戻る。電話の指名も、教材会議の発言も、ナプキンの引き出しも、ぜんぶ、佐藤先生一人に、戻る。

戻る、と書くと、なにかが「もとの場所」にあったみたいだけれど、もとの場所は、佐藤先生にとって、ずっと、しんどい場所だった。

三年、いるかな。

三年で、ちゃんと、三人目を、私が、迎えられるかな。

歩きながら、考えた。家に着いたとき、答えは、出ていなかった。

二人になっても

「女性陣の意見ね」と一括で括られる、ということは、二人になっても、まだ、私たちが「個」として扱われていない、ということだった。一人だった頃は、「佐藤さん」という固有名で扱われていた。二人になった瞬間、「女性陣」というラベルに、入れ替わった。

これを、佐藤先生も、たぶん、感じている。けれど、二人とも、口にしない。口にしない、ということが、たぶん、私たちが、二人で持っている、いまの形だった。

明日、佐藤先生は、また、母親からの電話を、取る。

私は、その横で、自分の電話が、鳴るのを、待っている。

鳴ったら、出る。指名でなくても、出る。

三年、ここで、出続ける。たぶん。

← 第一稿:二人になっても
← 研究室4人による建設的批判
→ 第三作:「縁がなかった」の、あと(山田謙一郎・52歳・所長)
← 第一作:一人だけ、では(佐藤紗英子・35歳)
← シリーズ目次に戻る

本作は『二人になっても』の第二稿。研究室メンバー4人の建設的批判を受けて書き直し。具体的な変更点:(1)セクションを6→4本に減らす(「駅前のカフェ」削除、「帰り道」と統合)、(2)キメ二段「組織の弱さは、二人で支えられている/二人で支えられていることが組織の弱さ」を完全削除(前作 critique で指摘された構造の続編での復活を回避)、(3)高橋の声を佐藤と差別化、短文・断片化、(4)「あー、女性陣の意見ね」を所長ではなく中堅男性講師に発言させる、所長は「ちょっと、止まって」気づきかける一瞬を見せる、(5)「進歩か後退か、両方少しずつ」のメタなまとめを削除、(6)佐藤のカフェの組織論メタコメント全削除、ナプキンと「うん、ありがたい」だけに圧縮、(7)高橋の内省を組織論から「三年は、いるかな」「十年は、たぶん、いられない」の自分の未来の不確かさに変更、(8)結語の構造を前作 v2 と差別化「明日、佐藤先生は、また、母親からの電話を、取る。私は、その横で、自分の電話が、鳴るのを、待っている」(二人の並列現在進行)、(9)佐藤のユイちゃん紹介を完全削除(過剰な情報整理)、(10)「ナプキン、二倍、助かる」のメタを「ありがたい」に。続編が前作の引き写しではなく変奏になるよう、視点切替の鋭さは保ちつつ、構造の反復を避けた。

このページの記事はAI(Claude)を用いて作成・編集されています。登場人物・場面はフィクションです。