ソノダマリ(データ分析協力:フジワラレン)
前回、AIは文化の「深層構造」を再現できないことがわかった。では、その深層構造を数字で可視化できないだろうか。
フジワラレンに相談した。データ分析に強い友人だ。「全22回に登場したポエムを全部集めて、頻出語や品詞の傾向を国別に比較したいんですけど」。彼は「再現性のあるデータが出るなら面白いですね」と、らしい返事をくれた。
フジワラが提案した方法はシンプルだ。シリーズ全22回に引用・創作されたマンションポエムのキャッチコピーをすべて抽出し、国・地域ごとに以下を集計する。
大山顕氏がKH Coderで1648件を分析したのに比べれば、我々のサンプル数は遥かに少ない。しかし多国間比較という点では、大山氏の分析(主に日本国内)にはない軸がある。
フジワラ注:サンプル数が少ないため統計的に有意な結論は出せません。あくまで傾向の可視化です。ただ、傾向自体は明確に出ました。
| 国・地域 | 頻出名詞 1位 | 2位 | 3位 |
|---|---|---|---|
| 日本(東京) | 街 | 邸 | 杜 |
| 日本(名古屋) | 造語(四方天空等) | 都心 | 歴史 |
| 台湾 | 帝 | 皇 | 家人(家族) |
| 韓国 | 브랜드名 | 생활(生活) | 미래(未来) |
| 中国大陸 | 府 | 城 | 品质(品質) |
| アメリカ | 地名(番地) | Park | Oak / Creek |
| ドバイ | iconic | luxury | trophy |
大山氏の分析で日本1位が「街」だったのは#1で紹介した。今回、他の国の1位と並べてみると面白さが際立つ。
台湾の1位は「帝」。中国大陸は「府」。同じ漢字圏でも、権力の表現が「帝→府」にシフトしている。#12で分析した「帝は皇帝、府は官僚」の差が、頻出語にそのまま数字として現れた。
韓国の1位がブランド名そのものであるのは特筆に値する。個別のポエム語よりも래미안、힐스테이트というブランド名の方が圧倒的に多い。#4の「ブランド名がポエム」を裏づけた。
各国のポエムに含まれる権力関連語の出現率を集計した。
| 国・地域 | 権力語の出現率 | 最も多い権力語 |
|---|---|---|
| 台湾 | 非常に高い | 帝王、皇室、富豪 |
| 中国大陸(整治前) | 高い | 王侯、帝王家 |
| ドバイ | 中程度 | trophy, exclusive |
| 日本(世界征服系) | 中程度 | 手中、掌中、支配 |
| 中国大陸(整治後) | 低い | 府、院(間接的) |
| 日本(一般) | 非常に低い | 上質、洗練(権力ではなく品質) |
| ロンドン・パリ | ほぼゼロ | (事実の記述で代替) |
権力語の出現率は、#16の「征服強度ランキング」を数字で裏づけた。そして中国大陸が整治の前後で劇的に変化していることが可視化された——「帝王」が消え、「府」に置き換わる。政策が語彙を変えることの定量的な証拠だ。
| 国・地域 | ポエムの平均長(概算) | 補填の原理との整合 |
|---|---|---|
| ドバイ | 最も長い | ◎(歴史ゼロ→最も饒舌) |
| 台湾 | 長い | ○ |
| 日本(東京) | 中程度 | ○ |
| 中国大陸 | 中程度 | ○ |
| 韓国 | 短い | ○(ブランド名に集約→短文化) |
| アメリカ(都心) | 非常に短い | ◎(住所がブランド→ポエム不要) |
| ロンドン・パリ | 最も短い(ポエム不在) | ◎(歴史が本物→ポエム不要) |
#9の補填の原理——「ポエムの饒舌さは不足に比例する」——が、文字数という定量データでも確認された。ドバイが最も長く、ロンドン・パリが最も短い。#21の「歴史の量とポエムの饒舌さは逆相関する」が数字になった。
フジワラ注:これは全22回の引用ポエムからの概算であり、各国の不動産広告全体のサンプルではありません。しかし傾向の方向性は、大山氏の日本国内分析や各国の広告研究と矛盾しません。
データを一緒に見ているとき、フジワラがぽつりと言った。
「ソノダさん、面白いことに気づきました。日本のポエムは名詞と形容詞が多くて動詞が少ない。『上質がそびえる』の『そびえる』は動詞だけど、主語は抽象名詞の『上質』。つまり行為者がいない。誰も何もしていない世界なんです」
確かにそうだ。「街と暮らす」「杜に佇む」「刻が流れる」——日本のポエムの動詞は、人間の能動的な行為ではなく、状態や自然現象だ。
一方、ドバイの "acquire"(取得する)、"conjure"(召喚する)、台湾の「俯瞰」(見下ろす)、韓国の「사는」(住む/買う)——他の国のポエムには能動的な動詞がある。誰かが何かをする世界。
日本のポエム:行為者不在。状態が漂う世界(「上質がそびえる」)
他国のポエム:行為者がいる。誰かが何かをする世界("acquire a trophy residence")
これは22回かけて気づかなかった。「マンションを隠す」(アポファシス)だけでなく、「住む人も隠す」。日本のマンションポエムは、物件も人間も消去した、純粋な状態の詩だったのだ。
フジワラに感謝。数えてみなければ、この発見はなかった。
第1シーズンは定性的な分析——読んで、比べて、名前をつけた。今回、フジワラと一緒に数字で裏づけたことで、三原理と学術概念がデータに支えられた。
次は——この「行為者不在」の発見を、もう少し掘ってみたい。