ソノダマリ
メールが増えた。手紙のあと、今度は「これってポエムですか?」という質問が届くようになった。
日常で見つけた「なんかポエムっぽい文章」を送ってくる。マンションの議事録、PTAの便り、歯医者の張り紙。みんな、一度ポエマイゼーションを知ってしまうと、日常の言葉が気になって仕方なくなるらしい。
わかる。私もそうだった。
せっかくなので、送られてきた「これポエムですか?」にポエム度を判定して返すことにした。星1つから5つ。基準は完全に私の主観。学術的な根拠はない。楽しんでほしい。
| ★ | ポエム度ゼロ。事実しかない。偉い。 |
| ★★ | ポエムの気配。本人は事実を書いたつもり。 |
| ★★★ | 立派なポエム。6つの操作のうち1つ以上が確認できる。 |
| ★★★★ | かなりのポエム。マンション広告に混ぜても違和感がない。 |
| ★★★★★ | 「上質がそびえる」級。もはや芸術。 |
投稿者:分譲マンション居住者(40代男性)
先日の理事会の議事録にこう書いてありました。
「住民の皆様の快適な暮らしのために」
議題は駐輪場の放置自転車の撤去でした。
★★★
ソノダの判定
「快適な暮らしのために」は万能フレーズだ。マンション広告でも管理組合でも防犯カメラの営業でも使える。何にでも使えるということは、何も言っていないということだ。
しかしこの議事録のすごいところは、議題が放置自転車の撤去だということ。つまり実態は「邪魔な自転車をどかしたい」。それを「快適な暮らしのために」と書く。変装だ。「撤去」が「快適」に着替えている。ネガティブな行為をポジティブな目的で包む、議事録ポエムの基本形。
ただし管理組合の議事録は法的文書でもあるので、ポエムが入りすぎると困る。この程度ならかわいいもの。星3つ。
投稿者:小学生の母親(30代女性)
PTA広報誌の巻頭あいさつです。
「子どもたちの笑顔のために」
内容はベルマーク集計の報告でした。
★★★★
ソノダの判定
これは強い。「子どもたちの笑顔のために」は高校パンフでも頻出した最強クラスのポエムだ。反論不能。「子どもの笑顔のためじゃないだろ」とは誰も言えない。言ったら悪人になる。
そしてベルマーク集計。あの地味で果てしない作業を「子どもたちの笑顔のために」で包む。補填だ。作業の退屈さを、崇高な目的で埋めている。やっていることは台紙にシールを貼る内職なのに、読むと感動しそうになる。ポエムの力、恐るべし。
星4つ。マンション広告の「上質な暮らしのために」と構文が完全に一致している点も加点。
投稿者:会社員(30代男性)
ふるさと納税の返礼品に同封されていた手紙です。
「心ばかりの品をお届けいたします」
届いたのは5kgの米でした。
★★★
ソノダの判定
「心ばかり」で5kg。心が重い。
これは日本語の謙遜表現がポエム化した典型例だ。「つまらないものですが」「ほんの気持ちです」——日本人は贈り物の価値を下げる言葉を添える文化がある。変装の一種。5kgの米を「心ばかり」に着替えさせている。
ただし、これはポエマイゼーションというよりは日本語の儀礼表現だ。「心ばかり」と言わないと失礼になるという文化的コードが先にある。ポエムというよりマナー。でもマナーとポエムの境界が曖昧なところが日本語の面白さでもある。
星3つ。5kgという物理的事実との落差がすばらしい。
投稿者:中学校教師(50代男性)
転校生が教室の前で言った自己紹介です。
「趣味は読書とスポーツです」
これって何も言ってないですよね?
★★
ソノダの判定
先生、鋭い。これは何も言っていない。
「読書」は「本を読む」。「スポーツ」は「体を動かす」。人間の活動を最大限に抽象化した結果だ。何の本を読むのか。何のスポーツをするのか。その情報が蒸発している。「読書とスポーツ」は、固有の情報がゼロの自己紹介。マンションでいえば「住みやすいマンションです」。
ただし転校生の気持ちを考えると、これは防御だ。知らない教室で30人の視線を浴びて、「趣味はジョジョの奇妙な冒険の考察です」とは言えない。無難であることが唯一の安全装置。ポエムというより、鎧。
星2つ。無難すぎて逆にポエム。
投稿者:OL(20代女性)
美容院の自動送信メールです。
「素敵な時間をお約束します」
約束するのは予約時間だけでいいのに。
★★★★★
ソノダの判定
満点。文句なし。
予約確認メールの機能は「何月何日何時にご予約を承りました」という事実の通知だ。それ以上でもそれ以下でもない。なのに「素敵な時間をお約束」。予約の確認が、人生の約束に変装している。
増幅が効いている。「予約」が「お約束」に、「施術時間」が「素敵な時間」に。単語ひとつひとつのグレードが上がっている。しかも自動送信。人間が書いたのではなく、システムが「素敵な時間」を約束している。機械が感情を語っている。これはもうマンションポエムを超えている。
投稿者のコメント「約束するのは予約時間だけでいいのに」が的確すぎる。私より分析がうまい。
投稿者:大学院生(20代男性)
歯医者の壁に貼ってあったポスターです。
「痛くない治療を心がけています」
ポエムですか? それとも祈りですか?
★★
ソノダの判定
投稿者さん、「祈り」は名回答だ。
「心がけています」がすべてだ。「痛くありません」ではない。「痛くない治療を心がけています」。つまり——痛い可能性はある。「心がけ」は結果を保証していない。意図を述べているだけだ。
これは変装の構造を持っている。「完全無痛ではないが痛みを減らす努力はしている」という事実を、「痛くない治療」というポジティブな表現に着替えさせている。ただし「心がけています」が逃げ道になっている分、嘘にはなっていない。正直なポエム。
星2つ。ポエム度は低いが、事実であってほしい度は星5つ。
投稿者:営業職(40代男性)
タクシーの助手席の後ろに書いてありました。
「安全・安心・快適をモットーに」
3つ並べるのはポエムの法則ですか?
★★★★
ソノダの判定
3つ並べるのは修辞法で三項列挙(トリコロン)という。シーザーの「来た、見た、勝った」。オバマの "Yes, we can." のリズム。3つ並ぶと人間の脳は「なんかちゃんとしてる」と感じる。2つだと足りない、4つだと多い。3は魔法の数字だ。
しかも「安全・安心・快適」。よく見てほしい。「安全」と「安心」はほぼ同じ意味だ。安全は客観的状態、安心は主観的感情。微妙に違うが、タクシーの車内表示でその違いを意識している乗客はいない。つまり2つの概念を3つに水増しして三項列挙を成立させている。増幅の技法。
そして「モットーに」で終わる。「モットーにしています」ではなく「モットーに」。体言止め。言い切らないことで余韻を残す。マンション広告の「邸宅の誇り、ここに」と同じ文法。
星4つ。タクシーの中にマンション広告があった。
投稿者:管理栄養士(30代女性)
コンビニのおにぎりのパッケージに書いてありました。
「愛情込めて握りました」
工場で機械が握ってます。
★★★★★
ソノダの判定
満点。殿堂入り。
「愛情込めて」——誰の愛情か。工場のラインで1分間に何百個も成形される米の塊に、誰が愛情を込めているのか。機械か。機械に愛情はない。工場の従業員か。シフト制で深夜3時に成形機を監視している人に「愛情込めてますか?」と聞いたら怒られる。
これは補填と変装の合わせ技だ。工業製品であるという事実を消去し、「手作り感」を補填し、「製造」を「握りました」に変装させている。3つの操作が同時に動いている。しかもたった8文字で。
投稿者のツッコミ「工場で機械が握ってます」は、ポエマイゼーションの定義そのものだ。事実(工場・機械)が広告コピーに変換される過程で、具体性(工場)が失われ、印象(愛情)と感情(手作り感)だけが残る。おにぎり1個にポエマイゼーションの全構造が詰まっている。
「上質がそびえる」は意味がわからないから笑える。でも「愛情込めて握りました」は意味がわかるから怖い。わかった上で受け入れている。私たちは毎日、工場製のおにぎりを「愛情」で食べている。
8件の投稿を判定した。管理組合、PTA、ふるさと納税、転校生、美容院、歯医者、タクシー、おにぎり。
マンションのチラシも、SaaSのLPも、高校パンフも——それは「広告」というフレームがあるから「ポエムだ」と気づける。でも今回の8件は、広告ですらない。議事録、お礼状、自己紹介、予約確認、張り紙、車内表示、パッケージ。日常のあらゆる言葉にポエマイゼーションが浸透している。
考えてみれば当然だ。6つの操作——補填、翻訳、蒸発、消去、変装、増幅——は広告の専売特許ではない。人間が言葉を使うかぎり、どこにでも現れる。「快適な暮らしのために」は議事録にも使えるし、「愛情込めて」はおにぎりにも使える。
ポエムは広告の言葉ではない。
人間の言葉だ。
だから日常のどこにでもある。
投稿してくれた皆さん、ありがとうございます。「これもポエムですか?」と問える時点で、もうポエマイゼーションの半分は見えている。残りの半分は、6つの操作のどれが動いているかを当てるゲームだ。
日常でポエムを見つけたら、また送ってください。次回があるかはわからないけれど、面白いものが集まったらまたやります。